第291話


「来ないなぁ・・・」


 翌早朝、俺は飛龍の巣の外で飛龍の発着が無いか、様子を窺っていた。


「湿気は感じるなぁ」


 天気は快晴、周りに海も無いのに、身体に纏わり付く風はジメジメとした気持ち悪さが有った。


(ドラゴンの皮膚は乾いているからなぁ)


 俺は今迄自身の狩って来たドラゴンを思い出し、奴等が生息するには適した環境なのかと感じた。


「ただ・・・」


 飛龍の巣は外から窺っても、其の変化を感じる事は出来なかった。


(まぁ、俺は通常の様子を知らないのだが・・・)


「とりあえず、数日は様子を見てみるか」


 俺は面倒とは感じたが、このまま巣の中に突入し、飛龍達に取り囲まれる事を危惧し、暫くは監視を続ける事にした。


(今回は戦力は俺一人。倒れれば其処で終わりだからなぁ・・・)


 結局、一日中貼り付いても何の成果も無かった為、俺は翌日、今度は巣の有る森からより距離を取り監視をしてみた。


「この位離れると、湿気は感じ無いな」


 昨日よりもはっきりしない空模様だったが、巣から発させる湿気が無い為、昨日の様な気持ち悪さは感じなかった。


「う〜ん・・・」


 俺は木々の僅かな靡く様子さえ見逃さない様、瞳に魔力を流し、巣の様子を監視していた。


(何も考えずに巣を潰す事が出来たら楽なんだけどなぁ・・・)


 其れをすると、休憩と糧を得る場を無くした飛龍達が、どんな動きに出るか分からない為、当然の事だが許可は得られなかった。


 その後、陽が高くなり俺が昼食にあんぱん咥えながら、監視を続けていると・・・。


「・・・ん?」


 森の木々の葉が僅かに揺れるのが見え・・・。


「・・・っ」


 3匹の飛龍が森から飛び発って行くのが見えた。


「・・・んんん、・・・ふぅ〜」


 詰まりそうになったあんぱんを牛乳で一気に流し込み、安堵の息を吐く。


(3匹なら・・・)


「良しっ‼︎」


 俺は相手の戦力を読み、此の状況なら追跡の問題は無いと判断し、闇の装衣を纏い、其の背に漆黒の翼を広げた。


(速さは・・・、問題無さそうだな)


 頰に当たる風の強さは中々のものだったが、それでも、自身と飛龍の速度差を見て、距離を離される心配は無さそうで、俺は安心した。

 そうして飛龍達から、一定の距離を取りつつ、追跡する事1時間位だろうか・・・。


「ん?あれは・・・」


 飛龍達の進行方向の先。

 リアタフテ領の5分の1程だろうか?

 見えて来たのは小さな村だった。


「マズイなぁ・・・」


 このまま、追跡していて村を襲われると面倒だが・・・。


(あの村にも・・・)


 考えたのは一瞬の間・・・。


「・・・剣ッ」


 俺は闇の剣を生み出し、飛龍達へと放った。


「・・・ッ⁈」

「・・・ちっ‼︎」

「ガ・・・」

「はあぁぁぁ・・・、波‼︎」


 闇の剣を寸前で躱した飛龍達。

 俺は威嚇するかの様な咆哮を上げさせず、衝撃波で牽制し、奴等の上空を取った。


「・・・グググ」

「まだだ‼︎まだ、行くぞ・・・、雨ーーー‼︎」


 連中へと降り注ぐ漆黒の雨粒。

 生半可な魔法では裂く事が叶わないであろう、強靭な龍の鱗と体躯。


「ギュュュウウウーーー‼︎」


 其の深緑の巨体は、ドス黒い雨と荒々しさに相応しい真紅の血で染まっていった。


「ガア・・・」

「やらせんっ‼︎霧アァァァ‼︎」

「・・・ッッッ⁈」


 飛龍達は、1頭は俺等一瞬で飲み込んでしまいそうな口元に炎を貯め、2頭は此方へと襲い掛かろとしたが、俺は闇の霧で其れを抑えた。


「・・・ふふ」

「・・・⁈」


 奴等に纏わり付き、其の巨体を抑えた霧は、俺へと伸び、長時間飛行で疲れた魔力と体力を回復していき、俺はつい口元に笑みを浮かべてしまった。


「お前達の血肉だ、しっかりと喰らいな・・・」

「グググーーー‼︎」

「剣ウゥゥゥーーー・・・」


 詠唱に反応し、空一面に広がる無数の黒き刃達は、突然の雷雲でも空に広がったかの様に、辺りを闇の世界へと染め・・・。


「行けえぇぇぇ‼︎」


 俺が飛龍達に浴びせた咆哮に呼応するかの様に、一斉に奴等へと降り注いだのだった。


「ギヤャャャアアア‼︎」


 漆黒の刃達は飛龍達の翼を裂き、其の身に突き刺さり、奴等を地へと落としていった。


「・・・ふぅ〜」


 奴等の力を使ったとはいえ、流石に規模の大きな魔法を使った事で、俺は無意識のうちに息を深く吐いていた。


「仕留めた・・・、な」


 大地へと墜落し、身動きを取らなくなった飛龍達。

 俺は闇の翼の力を弱め、奴等へと近付き、完全に仕留めた事を確認したのだった。


「・・・良かった」


 まだ距離がある為、村の者達には何が起こったか分からないだろうが、あの村にも颯や凪の様な子供、そしてアンジュの様なお腹に子種を抱く母が居るかもしれないと思い、俺は一人で勝手な達成感を感じた。


「・・・晴れたなぁ」


 空は朝のはっきりしない天気や、先程の闇の世界が嘘の様に、快晴が広がっていたのだった。

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