第288話
「おいっ」
「⁈ケンイチ様?」
俺が城の廊下を城門に向かい歩いていると、背後から声が掛かり、振り返るとケンイチが立っていた。
「・・・」
「え、え〜と・・・?」
「・・・ちっ」
「・・・私に何か用でしょうか?」
「あん?当たり前だろ。じゃ無ければ、一々呼び止めねえよ」
「はぁ・・・」
相変わらず俺と2人で会話する時は不満気な態度のケンイチ。
ただ、何やら用が有るらしく、突っ掛かりながらも、其れを伝えて来た。
「どうして・・・?」
「え?」
「どうして、陛下からの任務を1人で受けた?」
「それは・・・」
「・・・」
「・・・」
「ちっ、まあ良い」
「はぁ、すいません」
「だが、失敗はリアタフテもお前の家も失落させると忘れるな」
「・・・はい」
俺がその問いに対する答えを示す事が出来ず、言葉に詰まっていると、ケンイチも察してくれたらしく、それ以上は問うて来なかった。
「用件はそれだけで良いのでしょうか?」
「あん?・・・いや、もう一つ有る」
「もう一つ?」
「おう、此れだ」
「此れは、手紙」
ケンイチは自身のアイテムポーチから手紙を取り出し、俺へと手渡して来た。
「あぁ、リール様にですね」
「いや、違う」
「え、では?」
「お前が今回向かうランコントル。其処に俺とリールの昔の仲間が居るんだ」
「ケンイチ様とリール様の?」
「おう。パランペールも居たパーティのメンバーだ」
「へぇ・・・」
俺は受け取った手紙に視線を落とす。
「『ポワン』さんですか」
「おう。ランコントルの城下町で道場を開いている」
「道場・・・、武道家ですか?」
「・・・まあ、その系統だ」
「・・・?」
何処か微妙にハッキリとしない答えのケンイチ。
話ではポワンという人物は、パーティを解散した今も冒険家の様な事をしており不在の可能性が高い為、手紙は道場に届ければ良いとの事だった。
「とにかく、任務には成功しか許されねえ」
「はい、勿論です」
「・・・ちっ」
「・・・」
「まあ、お前は空も飛べるし飛龍に対し、其処迄不利な状況にはならねえだろう」
「・・・」
「先ず第一にリアタフテの為。・・・そして、アンジュ嬢と生まれて来る子が、お天道様の下で堂々と生きて行く為、お前の力を世に知らしめて見せろ」
「はいっ‼︎」
「・・・けっ、じゃあな」
ケンイチは自分の言いたい事だけ伝え、俺に背を向け去って行ったのだった。
「ふぅ〜・・・、とりあえずローズに連絡とアンジュにも・・・」
俺は出産立会いに期待するアンジュの顔を思い出し・・・。
「はぁ〜・・・」
深く重い溜息を落としたのだった。
その後リアタフテ家屋敷に戻りローズに事態を伝えると、すぐに旅の用意を始める様、アンに指示を出してくれた。
「そういう事なんだ・・・」
「そう、まあ仕方ないわね」
「すまない、アンジュ」
「良いわよ、別に」
ローズへの報告を終えた俺は、ディシプルのアンジュの下を訪れていた。
「大丈夫よ、司が居ようが居まいが、時が来たら出会うのだし」
「アンジュ・・・」
「しっかり任務を果たして来るのよ」
「あぁ、何とか出産には間に合う様に帰るよ」
「ふっふっふっ、この子と待ってるわ」
アンジュはお腹を撫でながら、気丈に振る舞ってくれたのだった。
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