第287話


「『フェデラシオン連合国』ですか?」

「そうだ、知っておるか?」

「はい。確か此の国の西にある小国の集まった連合国だと授業で習いました」

「うむ、その通りだ」


 此処はサンクテュエール王都の城、謁見の間。

 俺は国王に呼び出しを受け、周囲を貴族達に取り囲まれた状況で彼と対面していた。


「その小国の中の一国『ランコントル』はな、昔我が王家から嫁入りした者が居るのだ」

「はぁ・・・」

「其の繋がりで儂に依頼が来てな」

「依頼、ですか?」


 どうやら、呼び出しは国王に来た依頼の件らしかった。


「そうだ、実はランコントルには『飛龍の巣』が有ってな」

「飛龍の巣ですか?」

「ああ。其処で最近妙な事が起こっているらしくてな」

「妙な事・・・、ですか?」

「うむ」


 国王曰く、妙な事とは飛龍達が最近、今迄見せなかった動きを見せているとの事だった。


「家畜をですか?」

「そうだ、喰らって回っているらしい」

「それは・・・?」

「すいません、陛下。よろしいでしょうか?」

「うむ、ケンイチよ。申せ」


 飛龍達の異変。

 そう言われても、俺には其れがどれ程のものなのか分からず、黙ってしまったが、其れを見ていたケンイチが横から声を掛けて来た。


「はっ。おい」

「はい」

「飛龍の主食は何か知ってるか?」

「主食?いえ」

「飛龍は本来肉食では無いんだ」

「・・・え?」

「そうだ、肉食では無い飛龍が家畜を襲う。その意味が分かるか?」

「・・・いえ」


 ケンイチの告げて来た意外な事実。

 その事実に俺はケンイチからの問いには答えられなかったが、事態の異常さは理解出来た。


「人は・・・」

「うん?」

「人はどうなのですか?」

「現在のところは無い。その為、今の内という事でな」

「なるほど」


 そういう事なら依頼の内容は理解出来るが・・・。

 俺は湧いて来た疑問を問う事にした。


「軍での駆除は行なって無いのですか?」

「其れも、フェデラシオンの事情が関係有るのだ」

「事情ですか?」

「そうだ。フェデラシオンは連合国である為、其々の国の軍の規模が法で決まっているのだ」

「あぁ・・・、そういう事ですか」


 国王は俺の疑問に、簡潔で分かりやすい答えを示してくれたのだった。

 軍の規模が決まっているなら、飛龍に割ける兵力は決まっている。

 そして、その兵力では対応出来ない為、縁を頼って国王へと依頼したという事だろう。


「我が国はケンイチの勇名も大陸に轟き、最近では司の名も知れ渡って来た」

「はぁ・・・」

「・・・では無いか?」

「・・・くく」

「・・・」


 国王の言葉に俺がどう反応するのが正解か、困惑していると、周囲に居た貴族達から何やら囁く声が聞こえて来た。


「・・・だろ?」

「・・・リリーギヤも大変だな」

「くく・・・、いや、意外と」

「ああ・・・」

「・・・」

「こほんっ」

「・・・っ」

「何だ?何かあったか?」

「い、いえっ」

「なら静かにしておけ」

「はっ」


 国王からの威圧感を感じたのか、黙り込んだ貴族達。

 だが、僅かに確認出来たリリーギヤという名と、その侮蔑を含んだ笑いに、内容は俺とアンジュの事だと分かった。

 俺達の事は公表はしてないが、一部の耳聡い貴族達は情報を手に入れてる様だった。


「どうだ?受けてくれるか、司よ?」

「ははあ〜」

「そうか」


 俺はリアタフテ家の婿なのだし、国王からの依頼を断る権利など無いだろう。

 それに、アンジュとの件では国王に大きな借りが有る。

 その為、俺は即答で国王からの依頼を引き受けたのだった。


「それで、同行者だが、何名程連れて行く?」

「陛下」

「ん?どうした?」

「今回の任務、私1人で受けさせて頂きたいと思います」

「ほお?」


 今回の任務は他国へと入国する為、参加者の確認をする必要が有るのだろう。

 国王は俺へと同行者の確認を行って来たが、俺は1人で任務を受ける事を望んだ。

 周りの貴族達の反応を見るに、連中は俺の事を見下しているのだろう。


(まぁ、やった事がやった事だし、連中にしてみれば俺なんか成り上がりでしか無いのだがな)


 俺1人ならそれで問題無いのだが、もうすぐ生まれて来る子とアンジュの為にも、俺自身の評価を高めておく必要があった


「それでは、頼んだぞ」

「ははあ〜」


 俺が国王へと返事をし、謁見は終了となったのだった。

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