第272話


「上手く行って良かったな」

「ブラートさん・・・。はい」


 サンクテュエール王とクズネーツ王の交渉は上手く行って、俺達は晴れてゼムリャー討伐へと邁進する事が可能になった。


「失敗していたら、無理矢理狩ったか?」

「そうですねぇ・・・、その為に此処迄来たので」

「ふっ、そうか」


 ブラートからの質問に俺は迷う素振りを見せながらも、即答したのだった。


(ブラートとアルティザンの関係を考えると申し訳ないが、狩らない訳にも行かないからな)


「ただ、彼等と揉め事にならなくて良かったです」

「ふっ、其れは最初から無いさ」

「え⁈どうしてですか?」

「サンクテュエール、彼の国の王が、司が危機に陥る様な事はしないし、そうなるなら、此処にお前を送り出す事はしないさ」

「・・・そうでしょうか?」

「ふっ、あの男はかなり強かな男だ」

「それは・・・、そうでしょうね」


 どうやらブラートはサンクテュエール王を評価しているらしく、そして国王が俺の事を大事にしていると考えている様だった。


(う〜ん・・・、国王の初対面以来の対応を額面通りに受け取るなら、其れも有るだろうけど・・・)


 俺としては、ブラートが国王に感じる強かさと同質なものを感じていて、どうにも国王からの自身への評価を、純粋に受け取る事が出来なかった。


「でも、彼等は本当に寒さに弱いのですね?」

「ん?ああ。冬は穴に籠りっきりだからな」

「へぇ〜・・・」


 国王が最初にドワーフ側に提示していた条件は2つで、先ずはクズネーツで製作されている品の、現在の輸出価格より高い条件での、サンクテュエールによる輸入と、其れに掛かるコストの全面的な支援だった。

 次に今回の戦闘での被害額の賠償だった。

 然し、クロートは其れだけでは満足せず、住居である穴が使えなくなる事を考え、サンクテュエールによる住居の準備と、暖房器具と魔石の恒久的な支援を求めたのだった。


「ドワーフ達は魔法関連は不得手だからな」

「其処迄なのですか?」

「ああ、小さな火ですら起こせる者は殆ど居ない」


 話は聞いていたが其処迄とは・・・。


「マジックアイテムを作ったりはしないのですかね?」

「その手の技術は魔力とは関係ないさ」

「へぇ〜・・・、あっ」

「ん?どうした?」

「い、いえ・・・」

「ふっ」


 マジックアイテムと魔力は関係ない。

 ブラートからの言葉に一瞬違和感を感じたが、俺はすぐにフェルトの事を思い出した。


(フェルトも確かに魔流脈が弱いのに、マジックアイテムを作れるものなぁ・・・)


「けど、陛下はクズネーツから武具や兵器を輸入してどうするつもりなのでしょうね?」

「ふっ、さてな・・・。ただ、此処には悪い話では無いさ」

「他からの圧力などは無いのですかね?」

「サンクテュエールと揉めて迄、此処に圧力を掛ける組織は想像出来んな」


 クズネーツは現在、闇の商人を通じて製作した武具を市場へと流している。

 然し、闇の商人達はドワーフ達の作った品をかなり買い叩いているらしかった。


「でも、何故?」

「ドワーフは其の数が、他の種族に比べ圧倒的に少ないからな」

「そうなのですか?」

「ああ、だから争いになると圧倒的に不利なのだ」

「そうですか・・・。でも、協力する種族は?」

「種族間同盟的なものはゼロだ」

「・・・」


 人員が少なければ、他種族と協力関係を結ぶのが普通だと思うのだが・・・。

 どうやら、ドワーフ達はそうでは無い様だった。


「とうぜん」

「・・・っ⁈ディア?」

「あいつら、えらそう」

「・・・」

「ふっ。まあ、事実だな」

「ブラートさん・・・」


 偉そう、そう言って来たのは、謁見の間の件があった為、目を離さない様に連れているディアだった。

 因みに、他の仲間は交渉の成功を告げに、船へと戻って貰っていた。


(まぁ、ディアだけならともかく、ブラートも言うという事は事実なのだろう)


 確かに謁見の間での様子を見ると、かなり不遜な感じはしたが・・・。

 そんな事を思っていると、突然声が掛かった。


「事実、儂等より優れている種族など居らん」

「・・・クロート様」

「ふんっ、ほんとえらそうっ」

「お主も大概だろうて、九尾の狐よ?」

「い〜〜〜、だっ」

「ディアッ。すいません、クロート様」

「構わん」


 流石にクロートは一族の王だけあり、ディアの失礼な態度にも、他の者達の様な粗暴な反応は示さず、悠然とした態度で流した。


「そもそも、我らにとっては普通の事だ」

「はぁ・・・」

「我らは神を殺せる力を持つのだからな」

「・・・っ⁈クロート様⁈」

「ふっ、剛毅だな」

「えらそうに」


 神を殺せる力・・・。

 クロート曰くドワーフは、素材の質にさえ問題無ければ、神を殺す刃を打てるとの事だった。


(此れは慢心か、其れとも虚心か・・・)


 ただ、クロートがあまりにも事も無げに言った事に、俺は判断がつかなかった。


「それで、ゼムリャーの居所ですけど?」

「ふむ、最近は補給が続いているのか、地上に顔を出して無いな」

「補給ですか?それに地上に顔をって?」

「うむ。彼の神龍は其の巨体から、大量のエネルギーを必要とするからな。其のエネルギーを補給する期間は地中に潜っている」

「誘き出す事は?」

「上質な鉱石が有れば可能かの」

「鉱石かぁ・・・」


 俺は待っていてくれるローズや子供達の事も有るので、なるべく早めに狩りたいのだが・・・。


「何とかなりませんかね?」

「ふむ・・・、一番北の島に有る黒曜石なら或いは」

「黒曜石ですか?」

「うむ。一番好物だからな」

「なら、何故、其処に居ないのですか?」

「地中の苗床を枯らせば、二度と其れを食す事は出来なくなる。故にある程度食し、島を渡るのだ」

「なるほど。一度渡ればエネルギー消費の為・・・」

「うむ。暫くは其の島で過ごすという訳だ」

「なるほど・・・。良し」

「ふっ、算段がついた様だな」

「えぇ、ブラートさん」


 早急に狩りに入れる事、それに上手く行けば海へと誘い出し、より有利に戦闘を進められる事から、俺はナウタに頼み黒曜石を採って来て貰う事にしたのだった。

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