第271話
「我が王からの書簡です。お納め下さい」
「ふむ、おい」
「はっ‼︎」
ドワーフの兵は自身の王からの指示に、俺の手からサンクテュエール国王の書簡を取り、王へと渡しに行った。
「ふむ・・・」
「・・・」
此処はアルティザンに案内された先。
ドワーフの国『クズネーツ』の謁見の間だった。
「ほお?ふむふむ」
「・・・」
ドワーフの王『クロート』は、俺達からの謁見の願いに、アッサリと許可を出してくれたのだった。
「う〜む・・・」
「・・・」
クロートは王というよりは、歴戦の戦士といった感じだった。
其の体躯に刻まれた風化した傷は、幾百幾千の激戦を潜り抜けて来た証として、十分な説得力が有った。
(身なりは王だけは立派なもので、他はプレートメイルかぁ・・・、う〜ん)
俺が心の中で首を捻ったのには理由が有り、それは・・・。
「どうなのだ、王よ?」
「何と書いてあるんだ?」
「もう良い。俺に貸せ」
「トープ、貴様じゃ読めんだろ」
「ふんっ」
「・・・」
(あのドワーフはトープというのか・・・、ただ)
此処から一度離れたらトープというドワーフが、何奴かは分からなくなる程、ドワーフ達の容姿に違いは無かった。
(然も、王に対しても荒々しく、特徴の無い口調だからなぁ・・・)
此処に通される時に見掛けた女のドワーフは、身長は男のそれとほぼ変わらず、ただ身体つきは締まってはいるが其処迄屈強なものではなかった。
(女はほぼ穴から出る事が無いらしく、毛深くも無いしな)
其処は正直、少し安心したのだが、女達の相貌は身長に見合ったもので、童顔な少女の様な雰囲気だった。
「ふむ、ゼムリャーをな」
「・・・」
「然し、お主・・・」
「司=リアタフテと申します」
「ふむ、司の。で、司よ、ゼムリャーを何の為に狩る」
「其れは・・・、名を上げる為です」
「ほお?」
「私は既に光の神龍であるスヴュートを狩っています。サンクテュエールより次の神龍を目指すと、此処クズネーツに居ると言われているゼムリャーへと辿り着きました」
「ふむ、なるほどな」
「・・・」
本当のところは名など上げたくは無いのだが、龍神結界・遠呂智の事を説明し様がない為、スヴュートの名も出し、其れを理由とする事にした。
「確かに書簡にもその様な事が記しておる。其れに我等への援助についてもだ」
「援助とは何だ?」
「人族は信用ならんぞ」
「いや、他とて信用は出来ん」
「そうだ、他種族など皆我等を見下しておる」
国王はどうやら俺のゼムリャー討伐が円滑に達成出来る様、ドワーフ達に援助の提示をしてくれたらしかった。
だが、ドワーフって他種族からは下に見られてるのか?
疑問に思いブラートを横目に見ると、会釈程度に頷いてくれた。
「ふんっ、穴モグラが」
「ディアッ」
「何だと‼︎狐、頭を砕いてやろうか⁈」
「いや、達磨にして人族へ売り付ければ高値で売れよう?」
「そうだ、人族の男は他種族の雌を皆下卑た目で見ておるからな」
ドワーフ達が前述した通りに見下した様な挑発を行うディア。
俺が短く叱ったが、そんな事ではドワーフ達の怒りは収まる事は無かった。
「くく、愚かな穴モグラ共が、お主ら如き瞬きの間に焼き尽くしてくれよう」
「吐かせ‼︎おいっ、鉄槌を持って来い‼︎」
「やめろっ、ディア‼︎」
「お主らもじゃ‼︎」
いよいよ、戦闘を開始しそうなディアとドワーフ達に、俺とクロートは同時に一喝した。
「ふんっ」
「ちっ」
「退がれ、ディア。申し訳ありません、クロート様」
「ふむ・・・、構わん」
不満そうな様子のディアを、仲間達の後ろに退かせドワーフ達との距離を離した俺に、クロートは特に気にした様子は見せず、国王からの手紙に視線を落としていた。
「どうでしょうか、クロート様?」
「うむ、条件は悪くない」
「そうですか、では・・・」
「ふむ・・・」
「・・・」
「だが、ゼムリャーはちゃんと此処に戻って来るかのぉ」
戻って来る、クロートが呟いた言葉。
もしや、クロートは・・・。
「え?クロート様?」
「ん?何だ?」
「いえ、クロート様は輪廻転生の件を?」
「ほお、お主・・・。ひよっ子だと思えば、意外と・・・」
「いや、人伝でして」
「そうか、ふむふむ」
「ほお、興味深い話だな、王よ」
「ブラートさん」
俺とクロートの会話に食いついて来たブラート。
其の表情は言葉の割に、特別興奮した様子は無く、いつもの冷静なものだった。
「ふむ、まあ良かろう・・・」
クロートはブラートへと、俺がラプラスから得た情報と同じものを伝えていた。
「・・・ほお」
「ブラートさん?」
「ふっ。いや、我が一族に伝わって無い伝承だからな」
「そうですか・・・」
「ふっ、なるほどな」
確かに以前ブラートは、輪廻転生など存在しないだろうと言っていた。
「終末の大峡谷へは自分が魔石を持って行きます」
「ふむ、お主に辿り着けるのか?」
「はい。転移の護符の用意は出来ていますので」
「ほお、用意周到な事だ・・・」
「どうでしょうか?」
「・・・手紙にはお主に通信手段を渡してあるとあったが?」
「はい、此処に」
俺は出発に際して、国王から渡されていた通信石を取り出した。
「お主の王との交渉が上手く行けば、ゼムリャーの件は許可しよう」
「ははあ〜、ありがとうございます」
俺は取り出した通信石わクロートへと渡し、交渉の行方を見守ったのだった。
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