第273話


「頭ぁ、戻りやしたぜ」

「ナウタさん。お疲れ様でした」

「へっ、これ位なんて事無いでさぁ」


 俺からの黒曜石採掘の依頼を果たし、ナウタが戻ったのは4日後の事だった。


「其れで予定通りに事は進めてやすが」

「そうですか、ありがとうございます」

「でも、此処に持って来なくて、良いんですかい?」

「えぇ、クロート様曰く、ゼムリャーは此の島なら、何処からでも現れる事が出来るらしいので」

「なるほど、食い逃げは許さんて事ですかい?」

「そうです」


 ゼムリャーを誘き出す為の黒曜石。

 其れは現在、海上の船に引かせていた。


「あれが・・・」

「へいっ」


 視線を海上の船へと向けると、本船から綱に引かれた小舟の上には、漆黒の鉱石が鎮座していた。


「では、あっしは一度船に戻りやすぜ」

「えぇ。自分も後で戻ります」

「へいっ」


 船へと向かうナウタ。

 現在、俺達のパーティはアンジュを除いて、ブラートと別働隊としての策を詰めていた。


(ゼムリャーの力がどの程度かは分からないが、スヴュートと同等だと考えると、中途半端な実力の者が近くに居ると、本人だけではなく俺も危険に陥るだろうからなぁ)


 その為、別働隊の事は協力してくれるというブラートに任せたのだった。


(アナスタシアは特に不満げだったが、大丈夫だろうか?)


 アナスタシアはダンジョンの件も有るし、ローズに自身が俺を危険から守ると言って同行した手前、現在も俺とゼムリャーに対する事を望んでいたのだった。


「他にもディアの事も、アンジュの事も有るしなぁ・・・」


 俺は肩を落としながら、一人不安を口にするのだった。

 ディアは言わずもがなドワーフ達との関係だが、其れはブラートにフレーシュも気を付けてくれとの事だった。

 一方、アンジュは自身が船に残された事が余程不満だったらしく、別の島へとドワーフ達と避難する様にナウタを通じて告げたが、頼み事があるなら自分で来いとの事だった。


(船に乗せておくままではいけないしなぁ・・・)


 今回の作戦では、船は下手をすると別働隊以上に危険な為、早く降りて欲しかったのだが・・・。

 俺は仕方ないので、後で船迄飛ぶ事にした。


「ブラートさん」

「司か、どうした?」

「いえ、どんな感じかと思いまして」

「ふっ、大丈夫だ」


 此処はドワーフ達の洞穴で、ブラートによりパーティメンバー達へと、策の説明がされていた。


「・・・司様」

「アナスタシア、頼んだぞ」

「・・・はぁ」


 俺からの呼び掛けにも、未だ不満げな空気が漂っているアナスタシア。

 一方、ディアは・・・。


「もぐもぐ・・・」

「・・・」

「司様」

「すまないな、フレーシュ」

「いえ、この位どうという事は無いです」

「もぐもぐ・・・、んぐっ⁈」

「ほら、飲みなさい」

「・・・ごくごく、はあ〜。ありがと、おねえちゃん」

「はいはい。・・・ほらっ、口元も」

「んんん〜」

「もう、仕方ないわね」

「・・・」


 ディアはフレーシュが作ってくれたのであろう、パンケーキを食べながらフレーシュにあれこれと世話を焼かせていた。


(こっちは大丈夫か・・・)


「ん?ちゅかさ、きてたの?」

「まぁ・・・、な」

「ふ〜ん・・・」

「戦闘では頼むぞ、ディア?」

「ふんっ、しかたないなあ〜、ちゅかさは」

「・・・助かるよ」

「もぎゅもぎゅ・・・」

「とにかく、土龍の事は此方に任せて、お前はゼムリャーに集中するんだ、司」

「・・・分かりました。皆んな、頼んだぞ」

「了解です。司様の背中はルーナが守ります」

「あっ、ズルイですわ、ルーナさん。私も頑張りますわ、司さん」

「あぁ、頼んだ」

「はいっ、ですわっ」

「・・・はい」


 不満げな空気は隠さなかったが、アナスタシアも何とか返事をしてくれたので、俺はその場を後にし船へと飛び立つのだった。

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