第257話


「其の魔法って、どういうものなのですか?」

「うむ・・・」

「・・・」


 俺は息を呑みグランの言葉を待ったが・・・。


「はは、すまないね」

「え?」

「魔法の正確な情報は私も分からないのだ」

「・・・」

「私も遂に其処には至れなかったからね」

「至れなかった・・・」

「ああ・・・」

「あなた?」

「はは、仕方ないさ。曾孫迄生まれたのだ。事実を受け入れるしかあるまい」

「グラン様・・・」


 グランの渋い横顔に少し寂しさが浮かんだ。


(ただ、此れも絵になるのは、男前の特なところだよなぁ・・・)


「・・・」

「はは、すまない。魔法の事だったね」

「は、はい」

「遥か昔、此の地上には人族しか住んでいなかった」


(人族、起源種って事だよな)


「だが、ある時彼方より魔族やエルフ、獣人などが軍を為し此の地上へと侵攻して来たのだ」

「・・・」


(侵攻?楽園から追放されて来たんじゃないのか?)


「当初、人族は其れらの種族に比べて、肉体面でも魔力面でも劣っており、人族の集落は次々と攻め滅ぼされていった」

「集落ですか?」

「ああ、そうだ。まだ、人族が国を形成する以前の歴史なのだ」

「其処迄・・・」

「ああ、結果実は人族は一度滅びそうになっている」

「・・・っ⁈」


 俺はグランから語られた歴史に言葉を失ってしまった。


(だが・・・?)


 グランはそう言うが、楽園から追放されたラプラスからは人族を滅ぼしてやろうという雰囲気は感じられない。


(それとも、彼奴が特別なだけで、転生を繰り返す追放者達は人族を滅ぼそうとしてるのか?)


 そんな事も思ったが、ラプラスは境界線の守人との闘いの為と言ってたが・・・。


「其の時だ、神より人族に4つの特別な魔法が授けられた」

「人族に4つ?」

「ああ、其の内の1つが、リアタフテに伝わる魔法だ」

「人族にですか?」

「ふっ、そうだ」


 俺の脳裏に浮かんだ疑問に気付いたのだろう。

 グランは少し笑みを浮かべ、俺からの問いに答えた。


「司君は既にノイスデーテの事を知っているのだな?」

「いえ、すいません。正確には何も知らないのです」

「では?」

「はい・・・」


 俺はブラートから聞かされていた、思わせ振りな話をグランへと伝えた。


「・・・なるほど、ダークエルフか」

「えぇ。其れでグラン様に知っている事を教えて頂きたいと・・・」

「なら、すまなかったね」

「え?」

「私も其の疑問には答えられないのだ」

「それは・・・?」

「ふっ、意地悪をしたい訳では無い。私も疑問に思っていた。ただ、狐の獣人自体が謎が多いからね」

「そうですね」


 確かに其れはグランに期待しても仕方ないのかもしれない。

 ただ、情報を知ってそうなディアは全く協力的では無いのだが・・・。


「他の2つの魔法は?」

「うむ。1つは実は私にも良く分からないのだ」

「そうなのですか?」

「ああ、其の魔法を受け継いだ一族自体が、歴史の中から消え去っている様でね」

「消え去っている?」

「うむ・・・」


 まだ、国すら無い程、大昔の事だと考えると、そんな事があっても不思議では無いのだろうが・・・。

 俺は一瞬、抱き続けた疑問の答えに近づいたと思った後の連続の後退に、流石に気分が重くなった。


「そして・・・」

「・・・」

「もう1つだが、此れはアッテンテーターのザックシールに受け継がれている」

「え⁈ザックシールって・・・」

「うむ。司君やローズの同級生に彼の家の娘が居るらしいな」

「え、えぇ・・・」


 グランから告げられた、4つの魔法を受け継いだ内の1つの家名。

 其れはフェルトの家名なのだった。

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