第258話


「フェルトが・・・」

「いや、必ずしもその娘が至る可能性が有るとは言え無いが」

「それはそうですよね」

「そもそも、私はおろかリールも無理だったからね」

「ふふふ、ごめんなさいねぇ、お父様?」

「ふぅ〜、この調子だよ、司君?」

「はは・・・」


 リールはさして、申し訳ないとは思って無い雰囲気で謝っていた。


「リールは才能だけなら、私などより遥かに優れているのにね」

「ふふふ、それは無いわぁ」

「はぁ〜・・・」

「ふふふ」

「お母様は現役の頃は、リアタフテ史上でも3本の指に入る才能と言われていたのよ」

「へぇ〜・・・」

「ふふふ」

「・・・」

「本当だ」

「え?ケンイチ様?」

「信じてないだろ、お前?」

「い、いえ・・・」

「本当に強かった。俺なんかよりずっとな」

「・・・っ」

「ふんっ」

「ふふふ」


 グランにローズ、そして義理の両親に遠慮した様に大人しくしていたケンイチ迄も、リールの才能を褒め称え、俺はリールのその笑顔の奥の力に少し恐怖を感じたのだった。


「そ、それでは・・・」

「何かな?」

「一体、どうしたら、其処に至れるのですか?」

「うむ、其れが分かれば苦労は無いさ」

「はぁ・・・」

「ただ」

「?」

「其処に至れる可能性のある者は、風の神龍との邂逅を果たすと伝えられている」

「・・・っ⁈」

「どうかしたのか?」

「・・・え、い、いや」

「・・・」


 風の神龍・・・、じゃあ、あれは・・・。


「言ったろう、司君?」

「え?」

「そんな風に、相手に感情を読まれるなと?」

「・・・」

「どうした?」

「すいません、実は・・・」


 グラン、この男に隠し事は無理だろう。

 俺は仕方なくリエース大森林跡での話をした。


「うむ・・・」

「すいません」

「何がだい?」

「いえ、其れならあの時凪に・・・」

「ああ、そんな事か」

「そんな事って・・・」

「はは、気にする事は無い」

「・・・」

「其の宿命を背負う者なら、再会を果たせるだろう」

「はぁ・・・」

「はは、だがそうか、遂に・・・」


 グランは心から俺のミスを気にしていない様子で、声を上げて笑っていた。


「凪が・・・」

「ふふふ、嬉しそうねぇ、お父様?」

「当然じゃないか、我がリアタフテの悲願なのだから」

「ふふ、アナタ、良かったですね」

「ああ、メール」

「・・・」

「ローズ?」

「大丈夫よ、司」

「・・・」

「ただ、責任の重さを感じているだけよ」

「あぁ、そうだな」

「頑張りましょうね、司?」

「あぁ、ローズ」


 ローズはルビーの瞳に決意の炎を灯し、俺の方を見て来た。


「ママ・・・、あ〜あっ、ううう?」

「ええ、凪。ママもパパも頑張るわよ」

「う〜っ」

「ふふふ、凪ちゃんが応援してくれてるわねぇ」

「うん、お母様」

「はは、なら私も微力ながら力添えをしようかな」

「え、お爺様?」

「不服かな、ローズ?」

「・・・」


 ローズは怒りの不服というより、拗ねた様に少し頰を膨らませていた。


「不服は無いけど、お爺様は私が子供の頃は、魔法の稽古をつけてくれなかったわ」

「はは、そんな事は無い筈だが?」

「少しよ、少しだけ。でも、直ぐに旅に出たわ?」

「はは、そうたったかな?」

「もう・・・」

「ふふ、アナタの負けよ?」

「はは、面目無い」


 グランはローズの追撃を躱そうとしたが、メールの援軍に屈し、そのロマンスグレーを掻いていた。

 その後、俺にとっては初めて、他の人間にとっては久し振りの一家団欒での夕食を摂ったのだった。


 翌日、学院のザックシール研究室。

 俺は国王から船を貰った事を、フェルトに伝えに来ていた。


「ふふ、これで私も準備に入れるわね」

「嬉しそうですね、マスター?」

「そうかしら?まあ、新しい物を作るのは楽しみね」

「・・・」

「あら?どうかしたの、司?」

「ん?あぁ・・・。なぁ、フェルト?」

「何かしら?」

「ザックシールってさ・・・」


 俺が昨日の件をフェルトに問い掛け様とした・・・、瞬間。


「ヤメテ」

「・・・っ⁈」


 深緑の瞳に映った、より深い闇の色。

 俺を見据えた双眸からは、絶対的な拒絶の刃が放たれて来た。


「・・・」

「・・・」

「司様っ‼︎」

「ルーナ・・・」

「謝って下さいっ、司様‼︎」

「・・・っ」

「司様‼︎」

「・・・すまん、フェルト」

「・・・」

「マスターッ、司様は謝っています、だから‼︎」

「・・・」

「マスターッ‼︎」

「ふふ・・・」

「マスター?」

「良い娘ね、ルーナは」

「・・・」

「司?」

「あぁ・・・」

「今回は仕方ないわ」

「・・・」

「でも、2度と私の前で其の名を口にしないで」

「あ、あぁ、悪かった」

「ふふ、良い子よ、司?」

「・・・」

「貴方にだけは・・・」

「え?」

「・・・ふふ、何でも無いわ」

「・・・」


 何でも無い。

 そう口にしたフェルトの瞳は・・・、いつもの冷めた其れに戻っていたのだった。

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