第256話


「・・・っ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」


 現在地はリエース大森林付近の近海。

 俺は自身の仕留めた、海龍の腹の上で肩で息をしていた。


「威力は問題無いが・・・」


 海龍を仕留めた魔法。

 俺は威力には満足していたが、魔力の使用量と威力故の広範囲への多大な影響に、使用環境の限定を余儀なくされた。


「さてと・・・」


 俺は10数匹の海龍の群れの死体を眺め、これから行う作業に気が滅入った。


「アンを・・・、いや無理だな」


 これから行う作業は、此奴らからの魔石の取り出しだ。

 腹は俺が魔法で裂くにしても、取り出しが苦労しそうだった。


「仕方ない・・・、やるかっ」


 今回、何故海龍を狩りに来たかというと、実はローズとの結婚に向けた結納品の準備だった。


「折角、国王にも許可を得たし・・・」


 通常、上級の魔石は国が管理する為、俺の自由には出来無いのだが、俺が急遽用意出来、尚且つリアタフテ家に恥をかかせないレベルの結納品となると、魔物から取れる魔石位しか無かった。


「まぁ、此れが1番俺の力を示せる物だからなぁ」


 先祖代々受け継がれて来た慣習とはいえ、何処の馬の骨とも分からぬ男が、いきなり自身の領の領主の婿や貴族の仲間入りをするのだ。

 どんなに、相手側が優しい態度で接してくれているとしても、其処に甘えているだけで、不必要な弱みを握られるのは得策では無いだろう。


「・・・それにしても」


 海龍が魔石を持っているという事は、海底にもダンジョンが有るのか?

 俺は若干の違和感を感じ、そのうちラプラスへ確認しに行こうと思うのだった。


 結局、3時間程だろうか?

 海龍の魔石を取り出した俺は、腕を血塗れに汚し、屋敷へと戻って来た。


「・・・」

「おぉ、アンジュ。戻ったのか?」

「・・・」

「大変だったなぁ」

「久し振りね、司」

「其処までか?」

「ええ、取り残された私には・・・、ね?」

「・・・悪かったな。とりあえず、腕洗いたいから」

「そう?なら、街で待ってるわ?」

「・・・あぁ」


 ディシプルから帰還したらしく、屋敷の玄関で出くわしたアンジュ。

 当然、俺に言いたい事が有るのだろうが、俺の様子を見て風呂に向かう事迄は邪魔しなかった。


(とりあえず、日を置いて有耶無耶に出来無いか期待するか・・・)


 俺はそんな事を考えながら、風呂へと向かった。


「おお、戻った様だね?」

「グランさ、様」

「はは、気にする事無いのに」


 俺が風呂を済ませ食卓へと移動すると、グラン夫妻、ケンイチ夫妻、そしてローズと颯に凪と、リアタフテ家4世代揃い踏みだった。


「司、お疲れ様」

「あぁ」

「ふふふ、司君は何を用意したのかしらぁ?」

「ケンイチ君は確かぁ・・・」

「お、お義母さん・・・」

「ふふふ、そうね〜。ふふふ」

「・・・?」


 俺の結納品の話題で、メールはケンイチの其れを思い出し、何やら面白そうにしていた。


(ケンイチはそんなに特殊な物を贈ったのか?)


「大丈夫よ、司なのだから」

「あ〜あっ、うう〜」

「・・・」

「あらぁ、ローズちゃんは本当に司君にお熱なのね」

「ふふふ、そうなのよぉ〜」

「はは、良き事さ」

「・・・ぐぐぐ」

「は、はは・・・」


(おいっ、感情が漏れてるぞ、ケンイチッ)


 そんな一家団欒の空気が流れるリアタフテ家の食卓。

 俺はまだじいちゃん、ばあちゃんの生きてた頃の正月を思い出し、少しセンチな、でも暖かい気分になった。


「でも、ディシプルで初めて司君に会った時は驚いたよ」

「ふふふ、そうね」

「そうねじゃないよ、メールは気づいているのに、我々の素性を明かさないしね」

「そうだったかしら?」

「はぁ〜・・・」

「はは」


 初対面の時の俺が名乗った時の事だろう。

 確かに、2人は俺の名を聞いた瞬間、微妙な反応を見せていた。


「教えて下されば、良かったのに?」

「ふふふ、駄目よ」

「え?」

「私達は、ディシプルでフォール将軍に協力するつもりだったのだし、其れに司君を巻き込む訳にはいかないわ」

「・・・でも」

「ふふふ、ありがとう。優しいのね、司君は」

「当然よ、お祖母様」

「はは、君には敵わないよ、メール」

「ふふふ」


 俺は2人の状況を考えればこそ、俺へ名乗り出てくれた方が良かったと思うのだが、メールは事件が解決した今、何処か其れを拒否したい雰囲気を示したのだった。


「私達には私達の道が、司君とローズちゃんには2人の道が有るのよ?だから、彼処で司君を縛り付けたくは無いの」

「・・・」

「お祖母様・・・」

「ふふふ」


 こうして、リールと並んでいるとハッキリと親子と分かるメール。

 其の容姿は穏やかな老婦人だが、其の哲学には当主の妻を務めていた女性なのだと感じるものがあった。


「そういえばぁ、司君?」

「はい?」

「ふふふ、お父様にぃ、聞きたい事が有るんじゃない?」

「あっ・・・」

「ふふふ」

「何だい?」

「実は・・・、此のリアタフテ家に伝わる魔法の事なのですが?」

「ほお?」


 リールからの指摘に、俺はグランへと問い掛けたのだった。

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