第242話


「う〜ん」

「あ〜あっ、う〜?」

「あ、あぁ、凪。パパだよ?」

「あ〜あっ」

「・・・パパだよ〜?」

「あ〜あっ?」

「・・・」

「・・・ママ。あ〜あっ、う〜」

「司、凪にあまりプレッシャーを掛けちゃダメよ」

「・・・うん」


 ラプラスに会いに行った翌日、昼食を済ませた俺達一家はローズの部屋で、団欒の時間を過ごしていた。


「あ〜あっ、うっ」

「うん、パパだよ凪。ちょっと考え事してたんだよ、パパはね」

「あ〜あっ、う〜う。ママ、う〜う?」

「凪、ママはう〜んじゃ無いわよ」

「パパなんだよ、凪。う〜んなのは、パパね〜」

「もう、司ったら、仕方ないわね」

「・・・」


 相変わらず綺麗な発音で母であるローズを呼ぶ凪は、未だ父である俺の事を呼ぶ事は出来なかった。


(まぁ、この時期の子が正確にママって呼べるのは、普通ならあり得ないんだろうけど・・・)


「ママ、うっ」

「ふふ、凪。抱っこ?」

「うっ」

「はいはい・・・。よいしょっ」

「う〜う〜う〜」

「ふふ、暴れたら危ないわよ?」

「う〜、ママ」

「・・・まぁ、良いか」

「ん?どうかした、司?」

「いや、何でも無いよ」

「そう?」


 ローズの腕の中で、上機嫌に天使の表情を見せる凪を眺めるローズの横顔は、穏やかな聖母のものになっていた。

 その母娘の様子を見ていると、俺は細かい事がどうでも良くなるのだった。


「颯は?」

「寝てるわ。さっきミルク飲んだから、お腹いっぱいなのよ」

「そうか。凪は朝寝てたからな」

「う〜」

「ふふ、そうね」

「ああ・・・う、う〜?」

「そうよ、颯はお昼寝中なのよ」

「う〜」

「ふふ、ダメよ〜、凪?」


 凪は自身の弟の事が分かっているらしく、ベッドで寝ている颯に向かい、小さな掌を伸ばしていた。


「そういえば、週末にはアナスタシアやケンイチ様も帰って来るんだよな」

「そうね、アナスタシアには謝らないと」

「はは、そうだな」


 ローズに同行して、ディシプルへとはいったアナスタシアは、当のローズに置き去りにされた形になっていたのだった。


「グランさんも屋敷に寄るよな?」

「お爺様?ええ、多分。どうしたの、司?」

「あぁ、実は聞きたい事が有って」

「聞きたい事?」


 不思議そうな表情のローズに、ブラートやラプラスからの情報を伝えてみた。


「・・・そう」

「ローズは・・・?」

「無理よ」

「・・・」

「勿論、そういうものが有るとは聞いた事はあるの」

「そうだったのか」

「ただ、私に使えるなら、お爺様は詳しい話をしてくれているでしょうし・・・。何より、私より優れた魔導師のお母様に使えないのに、私には無理でしょ」

「う〜ん・・・」


 意外な程に弱気なローズの発言に、俺は少し言葉に詰まってしまったが、ローズはそのまま胸の内を明かして来た。


「そもそも、其の魔法が使えないと家を継げない訳では無いのだし」

「あぁ、なるほど」


 ローズの言う事は尤もな内容で、ローズは幼少の頃からリアタフテ家の次期当主として過ごして来たのだから、必要であれば使える様になるし、必要無いのだから使えなくて何の問題も無いのだった。


「・・・」

「どうしたの、司?」

「ん?いや、何でも無いよ」


 考え込んで無言になってしまった俺に、声を掛けて来たローズ。

 俺はこれからの活動方針について考えていたのだが、とりあえずはグランに話を聞いてからだが、当面の目標は土の神龍であるゼムリャーに決めたのだった。

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