第241話


「なぁ、ラプラス」

「何だ?」

「何故、ヴェーチルが居た事に気付いたんだ?」

「我の力だ」

「・・・」

「くくく」


(うん、まともに答える気は無さそうだな)


 この感じだと、此奴に期待するのは無駄だろう。

 俺は仕方がないので質問を変える事にした。


「奴は何処に行ったんだ?」

「くく、さあな?」

「今、どの位の距離に?」

「知らんっ」

「う〜ん・・・」


 要領を得ないラプラスの態度に、流石にどう質問したものかと俺が頭を抱えていると、ラプラスは少し考える素ぶりをみせ、若干真面目な口調で口を開いた。


「まあ・・・、良かろう」

「ん?」

「正確には、途中迄しか奴の事を追えてはおらん」

「途中迄?」

「そうだ。貴様は竜巻と表現したが、あれは奴が其の身を休める時に発生させる、一種の結界なのだ」

「結界・・・。でも、休めるって?」

「奴は通常、此のザブル・ジャーチと創造種の楽園の境界を漂っているのだ」

「・・・」

「其の状態の奴は限りなく穏やかで無風・・・。つまりは凪」

「・・・っ⁈」

「何だ?」

「い、いやぁ・・・」


 意図するところは無いのだろうが、突然ラプラスの口から自身の娘の名が出た事で、俺は一瞬肩を震わせる程の反応をしてしまった。


「くく、我に此処迄話させておいて・・・、な」

「・・・あ、あぁ。ただ、凪って俺の娘の名なんだ」

「・・・く、くくく」

「・・・」

「なるほどな。息子は?」

「ん・・・、颯だ」

「ほお?」

「・・・」


 よく分からないという顔をしているラプラス。

 まぁ、ローズに颯の漢字の意味を伝えた時に、漢字の無い此方の世界では意味が伝わらない事は分かっていたが・・・。


「つまりは凪の状態に入ると、ヴェーチルの位置が分からなくなるって事か?」

「そうだ。まあ、もっと正確に言うと、我は結界を察知したのだがな」

「結界・・・。あれを突破するのは?」

「くく、貴様では無理だろうな」

「ぐっ・・・。ラプラスは?」

「我なら或いは・・・」

「え⁈」

「ん?どうしたのだ?」

「い、いやぁ・・・」


 常に悠然であり、不遜な態度のラプラスから聞かれた意外な言葉。

 此の男なら、自身に不可能など無いと笑い飛ばしそうだったのだが・・・。


(この様子は、俺への意地悪な仕打ちでは無いだろう)


 という事は、ラプラスの言う通りあの結界を突破する事は不可能って事か・・・、そうなると。


「境界ってどの辺なんだ?」

「創造種の楽園のすぐ下だ」

「どうやっ・・・」

「無理だ」

「・・・⁈」

「くく、無理と言ったんだ」


 俺が問い掛け様とすると、食い気味に不可能だと告げて来たラプラス。

 口元に笑みを浮かべながらも、其の口調はこの話が始まってからと同じ、誠実といっていいものだった。


「極点龍」

「え?」

「奴の2つ名だ。奴の頭上を取れるのは、楽園の住人のみなのだ」

「何か手は無いのか?」

「くく、貴様、アナスタシアを助けたのに、何故まだ神龍を求める」

「さぁな」


 隠し事をするつもりで無く、そう答えるしかなかった。


(そもそも、神龍を全て狩ればどうなるのか、其れは俺にも正確には分からないからな)


「くく、まあ良かろう」

「其れで・・・」

「くく、1つだけ方法がある」

「本当か⁈」

「人族の中には、ヴェーチルの結界を破る事が出来る者が居るのだ」

「おぉ・・・。それって?」

「くく、知らんっ」

「・・・手掛かりは何か?」

「宿命」

「え?宿命って・・・?」

「人族で特殊な魔法を使うと言えば、宿命を背負いし血筋の者だろう」

「・・・」

「くくく」


 ヴェーチルの結界を破れるのは、宿命を背負いし血筋の者。

 俺の脳裏には、先日のリエース大森林跡での一件が浮かび、声が発せられなくなり、ラプラスの乾いた笑い声だけがその場に流れるのだった。

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