第185話
「此処が、終末の大峡谷か?」
「其の様ね。背後に有るのがザヴィッツシャーニイ山脈じゃないかしら」
「・・・本当だな。此れはラプラスに感謝しないとな」
「ふふ、そうね」
転移の護符を使い、俺とフェルトが辿り着いた先は、穏やかで煌めく水が流れる川と、其の両岸には空迄届きそうな程の険しい崖が聳え立ち、背後には雲を貫く山脈が雄大に存在していた。
「光の神龍とやらは上空にいるらしいが」
「どうするの?見て来るの?」
「そうだなぁ、そういえばどの程度なら損傷しても大丈夫なんだ?」
「そうねえ〜・・・、基本的には無傷が良いのだけれど・・・」
「いや、無理だろっ」
「ふふ、そうね。熱傷みたいな物は付けないで欲しいのだけれど、司は火属性の魔法は使えないでしょう?」
「う〜ん・・・」
有るのだけれどな1つだけ火属性の魔法が・・・。
(あれを使って崖崩れを起こして、スヴュートを其の下敷きにするってのも手なんだが・・・)
ただ、崖の強度がどの程度か分からなかったし、其処迄威力の微調整が出来る魔法では無いので、俺はとりあえず手段からは消去した。
「切り刻むのは問題ないか?」
「ふふ、ええ。細切れでも問題は無いわ」
細切れには出来ないであろう事を知りながらも、フェルトは悪戯っぽくそんな風に言って来た。
(俺の実力だけでは無く、根本的な問題が有るんだが・・・)
俺が自身の首元のネックレスに触れると、細かいひび割れが感じられた。
仮面の男との戦闘で、折られてしまった俺の剣。
屋敷に戻る途中でネックレスの形態に戻すと、ひび割れが生じていて、再び剣の形態にすると破砕したままだった。
(もし空中戦となると、剣が無いのはなぁ・・・)
俺がそんな事を考えていると、フェルトが自身のアイテムポーチに手を当てるのが見えた。
「ん、どうした?」
「ふふ、来客ありって、とこかしら」
「えっ⁈」
フェルトは鈍いわねと呟きながらも、何時でも戦闘開始出来る様に構え、俺は気配を察知出来なかったが、其れに倣った。
「待てっ、此方に敵意は無いっ」
「ふふ、敵意は無いと言う割に、既に包囲網を形成しているみたいだけれど?」
「・・・むっ、其れは此処は我らの領域だからだっ」
俺とフェルトが構えを取った事に、相手側は此方に敵意が無いと告げて来た。
然し、フェルトからのツッコミには、終末の大峡谷を自身の領域と言い少し不満気な声色になったが・・・。
(というか、既に包囲されていたのかっ⁈)
俺の察知能力が低いのか?其れともフェルトの其れが高いのか?
俺は前者が否定出来ない事に、少し悲しい気分になった。
「早く出て来ないと、私はともかく此の人は短気で野蛮よ」
「おいっ、フェルトッ」
「ふふ、良いじゃない。急いでるのは事実でしょう?」
「・・・っ、分かったよ」
「ふふ、期待してるわよ」
「はぁ〜・・・。開けっ、混沌を創造せし金色の魔眼‼︎」
フェルトの挑発的な態度はともかく、言っている内容は事実の為、俺は魔眼を開き臨戦態勢に入った。
(確かに囲まれてるな・・・、数は5。でも何だ此の位置は・・・)
魔眼を開くと、此方を包囲する相手の気配を察知する事は出来たが、どうにも妙な感じだった。
(1つは背後だから、物陰にでも隠れて居るのだろうが・・・)
他の4つは川底に2つと、左右の崖に其々1つずつ、ただ気配は感じるが、視認する事は出来なかった。
「仕方ないか・・・。おいっ、俺達の背後にいる奴‼︎10数える間に出て来いっ‼︎」
「・・・」
「出て来なければ、先ずはお前から仕留める‼︎」
「・・・っ⁈其の声は・・・、司か⁈」
「ん?って・・・、もしかして」
先程、フェルトと遣り取りをした背後からの声。
其れは何処か聞き覚えのある声で、俺の名前を発して来た。
俺が声の方を振り返ると・・・。
「梵天丸っ」
「おお、やはり司だったか」
其処には俺が名付けた隻眼のワーウルフ。
梵天丸が居たのだった。
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