第184話


 光の神龍スヴュートが居るのは終末の大峡谷。


(終末の大峡谷かぁ・・・、飛んで行ったとして途中通るのは・・・)


 俺はフェルトへと視線を向けた。


「ふふ、何かしら?」

「あぁ、終末の大峡谷となると、途中でアッテンテーター帝国を通るからな」

「・・・其れで私に期待をしているの?」

「まぁな、フェルトはアッテンテーターの貴族なんだろ?」

「ええ、まあそうよ。でも、期待はしないで欲しいわ」

「え?何で・・・?」

「私は不法入国を許可出来る程の力は無いわよ。司と共に行動していたら、当然何らかの罪に問われるわ」

「・・・そうなのか」


 俺は若干の違和感を感じたが、無駄な時間は使いたくなかった。


(どうするかなぁ、距離がどの位か分からないし、途中地上で休憩する必要が有るかもしれないしなぁ・・・)


「くく、何だお前、スヴュートに何か用が有るのか?」

「ああ、狩ろうと思ってるんだ」

「・・・」


 俺が光の神龍を狩ると伝えると、無言になったラプラス。


(神龍って言う位だから、やっぱり狩るのは不味いのかな?)


「くく、くははは。まあ、スヴュートなど我の足元にも及ばん存在だからな」

「そ、そうなのか・・・」

「我に敗北したお前でも狩れるかもな」

「狩るのは構わないのか?」

「くく、無論だ」


 此処で此奴に狩る事を止められ、揉めたりすると面倒だったので、俺は一安心した。


「ただし、奴の魔石は、終末の大峡谷に置いたままにしろよ」

「えっ?」

「ん?魔石が欲しかったのか?」

「いや、必要無いけど・・・」

「なら、言う通りにしろ」

「あ、あぁ・・・」


 意外にも、真面目な表情で告げて来たラプラスに、俺は若干気圧される様に返事をした。


「そういえば、終末の大峡谷迄は、此処からどの位の距離か分かるか?」

「距離か?さあな、気にした事も無いからな」

「そうか・・・」


 確か以前、梵天丸を送り届けた所迄なら、此処から馬車なら5日位で着く筈だが・・・。

 今回は当然空路で移動するのだが、どの位短縮出来るだろうか?


「此処からなら2週間程度よ」

「えっ?フェルト、知ってるのか?」

「正確にはザヴィッツシャーニイ山脈迄の距離よ」

「成る程、いや、でも其れは掛かり過ぎだな」

「そんな事を、私に言っても仕方ないわよ」

「あぁ、其れはその通りだけど・・・」


 フェルトから告げられた、終末の大峡谷の手前に有るという、ザヴィッツシャーニイ山脈迄の距離。

 其れは、流石に空路で移動したとしても、アナスタシアを救うのに間に合わないであろう距離だった。


「ラプラス、他のドラゴンって此の付近で居ないのか?」

「脆弱な者で良いなら、海に出れば海龍が居るだろう。飛龍に出会すよりは可能性も高いしな」

「脆弱って・・・」


 ラプラスから見た、脆弱な存在がどの程度のドラゴンなのか分からないが、此処は製作者のフェルトの意見を聞いた方が良いと思い、視線を向けてみると、俺が問い掛ける前に首を振った。


「無理よ」

「どういう事だ。狩る事が出来無いって事か?」

「そうでは無いわ。ただ、海龍は司が王都で狩ったドラゴンと其れ程力の差は無いと思うわ」

「そうか・・・」

「どうにかして、終末の大峡谷に行って貰うしか無いわね」

「・・・」


 仕方ないとは言え、他人事の様なフェルトの口振りに、俺は焦りが増した。


「何か近道とか抜け道的な物って無いのか?」

「・・・何だ?何をそんなに慌てている?」

「其れは・・・」

「くく、答えてみろ」


 俺はラプラスからの問いに、現在の状況を説明した。


「・・・其のハーフの娘の名は?」

「えっ、アナスタシアって言うんだけど」

「・・・」

「なぁ、其れより何か方法無いか?本当に時間が無いんだっ」


 俺からの問いにラプラスは何処か上の空で居たが、やがて何かを決意した様に口を開いた。


「・・・1つだけ有る」

「本当かっ‼︎」

「ああ・・・、此れを使えば一瞬で終末の大峡谷へと行ける」

「其れは・・・、帰還の護符?」


 ラプラスが状況打破の手段として取り出したのは、2枚の護符だった。


「良く似ているけど、違う様ね」

「分かるのか?」

「其れが何かは分からないけれど、帰還の護符とは刻まれている紋章が違うわ」

「あ、あぁ・・・」


 俺はそう返答したが、其れがどの様に違うのかは良く分からなかった。


「此れは『転移の護符』だ」

「転移の護符?」

「そうだ。此の護符は一方は終末の大峡谷へと、もう一方は此のダンジョンへと転移出来る様になっている」

「そんな物を持っていたのか?」

「くく、まあな。転生の度に一々彼の地へと旅をするのは面倒で、抜け道を使い隠し持っているのだ」

「・・・」


 抜け道・・・。

 其れがどの様なものか、俺には全く想像出来なかったがとにかく方法が見つかったのは助かった。


「なぁ、ラプラス?」

「くく、構わん」

「えっ?良いのか?」

「くく、我は最強の魔人ラプラス。嘘偽りは言わんっ‼︎」

「ありがとう。助かった‼︎」


 俺はラプラスに頭を下げ、2枚の転移の護符を受け取った。


「使用方法は帰還の護符とやらと変わらん」

「あぁ」

「後、魔石の約束は違うな」

「勿論だっ‼︎」

「其れと・・・」

「何だ?まだ何か有るのか?」

「・・・いや。くく、構わん。急げ」

「・・・?あ、あぁ、分かった。じゃあ行って来るよ」

「くくく」


 何かを言い掛けて辞めたラプラスだったが、直ぐに俺達を急かす様にした。

 俺はフェルト共に其れに背を押される様に、転移の護符に魔力を込めるのだった。

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