第183話


「つまりは『魔石化症』に悩まされてる訳ね」

「知っているのか⁈」

「当然でしょう?私は人工魔流脈の研究をしているのよ。其の手の話は色々と調べているわよ」

「そうか・・・」


 魔石化症、其れがケンイチから告げられたアナスタシアのもう一つの病であり、今まさに彼女を生死の狭間に立たせている問題だった。

 魔石化症とは実例はそう多くは無いが、其の殆どが亜人と魔族のハーフにみられる病で、魔流脈に障害を持つハーフが魔力の循環を上手く出来ない事から、自身の持つ魔石に魔力が溜まってしまい、其の事で魔石が徐々に身体を覆って行き、やがては魔石によって全身を飲み込まれてしまうという病だそうだ。


「其れで人工魔流脈ね。単純ね」

「くっ・・・」

「でも、それなら余計に王都へ向かうのは意味無いわよ」

「えっ?どうして?」

「司の使うあの魔法は確かに強力な物よ」

「・・・」

「でもあの魔法で消し炭になる程度の素材では、常に魔力を循環させる魔流脈としては確実とは言えないわ」

「そうなのか・・・」


 フェルトの言葉に、俺はそれでも逸る気持ちを抑えられなかったが、唯一の製作者にそう言われては俺にはどうする事も出来なかった。


「なら、他に素材になりそうな物は無いのか?」

「そうね、ドラゴンは良い線だと思うのだけど、私も魔物の専門家では無いのよ」

「魔物の専門家・・・、か。・・・あっ」

「あら?心当たりがあるの?」

「あ、あぁ、1人・・・」


 俺の頭に過ぎったのは最近出会った1人の魔人。

 彼奴ならもしかしたら、素材に出来る強力なドラゴンの居所を知っているかもしれない。


「素材が有れば作れるんだな?」

「・・・期待はしないでよ。設計も改良は必要な段階なのだから」

「分かっているさ」


 それでも今はフェルトに縋るしか無い為、俺はザックシール研究室を後にしようとすると、ルーナから声が掛かった。


「待って下さい、司様」

「どうした、ルーナ?」

「マスターにも、同行して頂いた方が良いでしょう」

「え?だけど、ルーナ・・・」

「私は大丈夫です。ですからマスターもお願いします」

「ルーナ・・・。貴女って娘は・・・」


 確かに必要な素材を判断して貰う為に、フェルトが同行してくれれば助かるのは本当の事だった。


「頼めるか、フェルト?」

「はあ〜・・・、仕方ないわね」

「悪いな。助かるよ」

「ルーナ、少し留守番をお願いね」

「はい、了解です」

「行って来る、ルーナ」

「はい、司様。お二人共気を付けて下さい」


 そうして俺とフェルトは学院を出て、ダンジョンへと移動した。


「便利な魔法ね」

「あぁ、そうだろ」


 フェルトは移動に使った飛行魔法が、甚く気に入ったらしかった。


「今度は落ち着いて、空の上を楽しませて欲しいわね」

「分かったよ」

「ふふ、約束よ」


 そんな事を話しながら、俺はアイテムポーチから帰還の護符を取り出して使用した。

 辿り着いたのはダンジョン最深部。


「グゴオォォォ」

「・・・っ⁈」

「何の音かしら?」

「ガッ‼︎ガアァァァ」


 ダンジョンのフロアに響き渡る、巨大な獣の唸り声の様な低く振動を伴った轟音。

 其の先に視線を向けると・・・。


「グウゥゥゥ、ガアァァァ」

「もしかして・・・」

「あぁ、ちょっと待っていてくれ」


 俺はフェルトにそう告げて、轟音の鼾を響かせるラプラスへと近づいた。


「おいっ、ラプラスッ」

「ゴオォォォ」

「起きてくれっ‼︎」

「グオォォォン」

「おいっ‼︎起きろって‼︎」

「ガアァァァーーー‼︎」

「・・・」


 俺はかなり大声を上げたり、ラプラスを揺らしたりしてみたが、熟睡しているラプラスは起きる事は無かった。


「仕方ないな・・・」

「大丈夫、司?」

「あぁ、本気を出すさ」

「えっ?」


 俺の本気宣言に少し驚いた表情を浮かべるフェルト。

 俺はラプラスから距離を取り構えた。


「狩人達の狂想曲‼︎」

「ちょっと、司?」

「ゴオォォォ」

「行っ・・・、けぇーーー‼︎」


 俺の咆哮に呼応し、ラプラスへと駆ける闇の狼達。

 狼達はラプラスへと一斉に体当たりをし、地面で横になっていた巨大な体躯は壁へと吹き飛んだ。


「・・・ゴッ‼︎」

「起きたか?」

「・・・」


 壁にめり込んだ身体を乱暴に引き抜き、気の抜けた表情を浮かべるラプラス。

 ただ、其の瞳は開いている事から、どうやら目は覚ました様だった。


「・・・無茶苦茶するわね」

「この位しないと駄目なんだよ」

「はあ〜、別に良いのだけど、揉め事はごめんよ」

「大丈夫だよ、多分」

「ん?何だ、地震か?」

「あぁ、そうらしいぞ、ラプラス」

「ん?貴様は・・・」


 俺の魔法を地震と勘違いしたラプラス。

 俺は丁度良いと、話をそれで通す事にした。


「そうか・・・。其れで今日は何しに来た?」

「先ずは此れを・・・」

「ん?くく、我への献上品か、感心だな」


 俺は先ず、アイテムポーチから焼酎を取り出しラプラスへと渡した。

 其れを早速飲みだすラプラスに、俺はドラゴンの情報を求めた。


「此処から一番近くて、強力なドラゴンが良いんだけど」

「・・・」

「居ないかな?」

「くく、居るぞ。1匹な、とびきり強烈な奴が」

「え?本当か⁈」

「ああ、光の神龍『スヴュート』」

「其奴は何処にっ?」

「終末の大峡谷、奴は其の上空を漂っている」


 終末の大峡谷に居るという光の神龍スヴュート。

 アナスタシアを救う一縷の望みを見つけたのだった。

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