第167話


「・・・」

「何だ?まだ何かあるのか?」

「・・・あ、あぁ」


 両腕を失いながらも、堂々としているラプラス。

 俺が自身の中にある疑問をぶつけようとすると、奴は少し待てと言い、前傾になり全身に力を込め始めた。


「ハアァァァ」

「・・・」


 ラプラスが力を込めると空間の空気が騒めき、空間そのものと其の中に存在する自身迄もが振動するのを感じた。


「カアァァァーーー‼︎」

「・・・っ‼︎」

「ふぅ〜・・・、ふぅ。良しっ」

「な、な、な・・・」


 ラプラスが全身に込めていた力を一斉に解放すると、両腕を失った箇所より禍々しい筋が刻まれた腕が生えてきた。


「良いぞ、何の話だ?」

「いや、それよりも、お前・・・」

「くく、何だ?まさかお前達の常識が俺に通ずると思ったか?」

「・・・はぁ」


 確かに鬼の容姿を持つラプラスに俺達の常識は通用しないだろうが、流石に信じられない行動をさも当然の様に行ったラプラスに、俺は溜息で応えた。


「まぁ良いよ。聞きたい事が幾つか有るんだ」

「くく、我に答える義理は無いがな」

「構わない。答えられる事だけ答えて貰えれば」

「くくく、良かろう」

「先ずは、お前は魔人って言ったけど、魔物とは違う存在なのか?」

「当然であろう。其処に居る狐の獣人の幼女と、獣の狐は同じものか?」

「魔人と魔物の違いは、獣人と獣の違いと同じものなのか?」

「・・・違うな。魔物はそもそも魔人の復活の副産物だ」

「復活?副産物?」

「そうだ」

「・・・」


 ラプラスの言った復活と言う単語に引っ掛かりを覚えた俺。


「復活ってどういう事なんだ?」

「どういう事?そもそも貴様等が復活させたのだろう」

「俺達が?そんな事してないぞ」

「くく、此れ程に無知とはな」

「・・・それなら聞くが、魔人を復活させる方法は?」

「古より伝わる魔法だ。貴様等はダンジョン精製魔法などと呼んでいる様だがな」

「・・・」


 ダンジョン精製魔法が魔人を復活させる魔法?

 ラプラスから告げられた事実は到底信じられないものだった。


「復活って事は封印とかされてるのか?」

「封印では無い」

「じゃあ・・・?」

「輪廻転生だ」

「輪廻転生だって?」

「くく、そうだ。参ったか?」

「・・・」


(いや、欠片程も参らないが・・・)


「だけど、何の為に?」

「・・・」

「ラプラス?」

「答えん。其れで、十分だ」

「いや、此処まで喋っておいて・・・」

「くく、其れはお前の勝手な考えだ」

「・・・」

「くくく、男の物欲しそうな顔など気色が悪いわっ」

「・・・はぁ」

「ふんっ、まあ端的に言えば楽園よりの追撃者と悠久の時を戦い続ける為だ」

「・・・っ」

「・・・」


 楽園よりの追撃者・・・、其れは・・・。


「境界線の守人か?」

「くくく、何だ知っているではないか」

「・・・なぁ」

「・・・」

「・・・ラプラスは何故、楽園から追放されたんだ?」

「楽園の禁忌を犯したからだ」

「其れは・・・?」

「答えん」

「・・・そうか」


 ラプラス、此奴は俺の過去の設定の中のルーナと同じ様に禁忌を犯し、楽園を追放されている。

 それならば、禁忌も同じものなのか?

 それとも、俺の妄想していた楽園とラプラスの言う楽園は違う物なのか?


「楽園って何処に有るんだ?」

「くく、彼方だ」

「・・・え?」


 ラプラスが指で指し示した先は天井が見えた。


「え〜と、地上って事か?」

「違う、もっと先だ」

「空?」

「くく、それよりも先だ」

「・・・どうやって行くんだ?」

「くくく、くく・・・、答えん」

「・・・」


(其れは無理な訳か・・・。出来れば教えて欲しいんだが)


 ただ、俺の目的への情報を握る貴重な情報源だ。

 此処は機嫌を損ねるのは得策ではないだろう。


「もう十分であろう?」

「いや、あと一つ良いか?」

「・・・何だ、早くしろ」

「俺達はダンジョン精製魔法を魔床を探して使うんだが、魔人と魔床の関係はどうなってるんだ?」

「言ったであろう?我々は輪廻転生を繰り返しているんだ」

「・・・」

「今世での生を終える時、我々は旅をし永き眠りにつく」

「旅・・・?」

「そうだ」

「何処に行くんだ?」

「・・・終末の大峡谷」

「・・・」

「其処に辿り着き、復活の刻を待ち永き眠りに入るのだ」


 ラプラスから告げられた魔人の最期の地。

 其処は先日、喋る魔物梵天丸の旅立った先であった。

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