第166話


「ほお〜・・・」

「・・・」

「敗北を認めるんだな?」

「あぁ・・・。そう言っただろう?」

「くく・・・、くくく」

「・・・っ」


 俺の敗北宣言に地面から俺を見上げ、見下した態度をとってくるラプラス。

 俺は屈辱を感じながらも、ニヤつく奴の言葉を待った。


「其れが敗北を認めた者の態度か?」

「え?」

「敗者であるお前は我を見下ろし、勝者である我は泥に塗れておる」

「・・・どうすれば良いんだ?」

「くく、そうだなぁ?其の頭を地へと擦り付け、我を見下ろす不遜な瞳は地のみを見つめよ」

「・・・分かった」


 ラプラスに言われた通り地面に頭を擦り付け、土下座の体勢になる俺。

 其の瞳は僅かに奴の影が動くのが映り、立ち上がったのが分かった。


「くく・・・、くくく、くはははっ」

「・・・っ」

「うむ、実に良い眺めだな」

「・・・ぐっ」


 自らの足を俺の後頭部へと置き、力を込めるラプラス。

 俺は額に鈍い痛みを感じた。


(ふぅ〜、面倒な奴だなぁ・・・。手早く皆んなを解放して欲しいのだが・・・)


 俺は敗北を認めながらも、此処からの逃走の術を思案した。


(帰還の護符を使うには皆んなと合流する必要が有るし、皆んなを先に逃がして俺は1人で帰るのも有りだが・・・)


 思いつく案は全て仲間達の解放が前提条件だった。


「ほれ、敗北を認めたのだろう?早く参りましたと言え」

「・・・っ、それより、皆んなを解放しろ」

「あん?其れが敗者が勝者に物を頼む態度か?」

「・・・」

「どうした?まだ、抵抗する気か?」


(仕方ないか・・・、此処は従って)


「参りました。私の負けです」

「・・・くく、くくく、はあ、はっはっはっ」

「・・・」


 高笑いを上げたラプラスの足に力が増すのを感じ、其の姿は見えなかったが踏ん反り返っている事が分かった。


「・・・早く、皆んなを解放して下さい」


 俺は期待は出来なかったがラプラスに皆の解放を求めた。


(さてと、次の手はどうするか・・・?)


「くくく、良かろう?」

「そうか・・・、なら此の命に代えてもお前だけは倒すっ」

「くく、さあ・・・。望みは叶えてやったぞ」

「行くぞっ‼︎・・・って、・・・え?」

「さあ、戻って来いっ。敗北者の一味よ」

「???」


 俺が命を賭しラプラスを仕留め様とすると、後頭部に感じていた奴の足の重みが無くなった。

 然も、奴は俺の仲間達を呼び込むのだった。


「え、え〜と・・・?」

「お前も何時迄もそんな体勢で居るなっ」

「其れは、お前が・・・」

「あん?もう勝負は決した。我が勝者。お前が敗者。違うか?」

「そうだけど・・・」

「なら、此の話は終わりだ」

「・・・」

「司様っ、大丈夫ですか?」

「ルーナか・・・、って、痛っ」


 ラプラスからの若干しつこい勝敗の確認が行われ、やがてルーナの声が聞こえた・・・。

 其れと同時に、ラプラスの足の重みから解放されていた俺の後頭部に、再び誰の物か、足が乗せられた。


(軽いなぁ・・・)


 ラプラスの物よりはかなり小さく軽い足。

 だが、奴の時より下品に蠢き、俺への揶揄いが感じられた。


「・・・ディア」

「・・・」

「止めるんだ、ディア」

「・・・」

「分かった。お前、戻ったら晩御飯抜きだからな」

「・・・っ」

「ふぅ〜・・・」


 やっと後頭部の重みから解放され顔を上げると、其処には仲間達が揃っていた。


「ディアじゃないっ」

「・・・」

「ちがうもんっ」

「・・・」

「う、うぅぅ、おねえちゃん、ちゅかさがいじめる〜」

「はいはい」

「うわぁ〜ん」

「・・・はぁ〜」


 ディアは俺からの無言のプレッシャーに負け、フレーシュの方に逃げて行った。


「まったく・・・」

「はは、大変だね司も」

「ルチルッ、意識が戻ったのか?」

「何とかね、でもまだ首が痛いよ」

「そうか、でも良かったよ」

「ありがとう、司」


 先程迄気を失っていたルチル。

 解放と同時に意識が戻ったらしい。


(ルチルは俺から依頼する形でパーティに加わって貰ったからな・・・)


 報酬は発生しているとはいえ、巻き込む形のルチルの無事に俺は安堵するのだった。


「お前達、子供なんて連れていたか?」

「ディアの事か?此奴は銀弧の獣人だよ」

「・・・くく、なるほどな」

「其れで、どうすれば良いんだ?」

「どうすれば?どういう事だ?」

「???」


 勝敗の決した俺達とラプラス。

 俺は奴の望みを確認しようとしたが、互いに意思の疎通が出来ていない様だった。


「何か俺達に望む事は無いのか?」

「望み?勝者である我が?敗者である貴様らに?」

「・・・」

「笑わせるな。我より劣る者達が、我の願いを叶えられる筈がなかろう?」

「其れはそうだが・・・」

「言ったであろう?此の話は終わりだ。以上っ」

「え、えぇぇ〜・・・」


 そう言って話を打ち切ったラプラス。

 俺はそんなラプラスの豪気な態度に、驚きと呆れの混じった息を漏らすのがやっとだった。

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