第151話
「じゃあな、司」
「其れではまた、真田殿」
「ブラートさん、フォール将軍・・・、本当にありがとうございました」
辺りは既に夕暮れ時を過ぎ、星が夜空に輝き始める時刻。
俺達は王都の監獄へブラートとフォールを見送りに来ていた。
「2人共、本当に良いのか?」
国王からの2人への問い掛けは、即時釈放でも良いという意味だが、2人は首を縦に振らなかった。
フォールはそもそもモンターニュ山脈を越える為に春迄待つ必要があるらしい。
だが・・・。
「ブラートさんは此処を出て何処に向かうのですか?」
「俺か?・・・頭と合流して決めるが、多分ディシプルだろう」
「え?」
「・・・」
ブラートの意外な目的地に俺は疑問を感じ、フォールの身に纏う空気にピリついた物が混じった。
「何の為かな?」
「ふっ、そう熱くなるな。彼の国を混乱させるのが目的では無いさ」
「・・・では?」
「船を手に入れるのが目的だ」
「なるほどな」
「他意は無いさ」
「そうか・・・」
ブラートとフォールの間に流れた張り詰めた緊張感。
然し、ブラートの答えにフォールは一応の納得をしたらしく、事無きを得た様だ。
(ただ、ブラートはそもそも盗賊ギルドに所属していたのだから、船をどの様にして手に入れる積もりかは疑問が残るのだが・・・)
其の後、俺達は2人に別れを告げ王都の関所へと移動した。
「司よ。本当にこの様な時刻に出発するのか?」
「はい、陛下。屋敷では皆待ってくれてますので」
「そう言えば、通信石は勿論まだ持っているな?」
「はい」
「今回の件と魔石の件の褒美を其々連絡するので待っておれ」
「ははあ〜」
そう言えばそんな話があったな、すっかり忘れていたし面倒な役職とかで無いと良いけど・・・。
「ふふ、其れにしても若さとは良いものだな。想い人の下へ一刻も早く帰りたいとは」
「は、はぁ・・・」
「・・・ちっ」
俺とフレーシュとディア、そしてバドー率いるサンクテュエール軍人の面々は国王とケンイチとデュック、グリモワールの見送りを受けていた。
(何度かリアタフテ領と王都を往復して分かった事だが、夜間の移動に此れといって危険は無いからなぁ)
バドーと軍人達は、ディアとミラーシへの対策としてリアタフテ領の兵力増強の為に同行する事になった。
(正直助かるな。・・・ただ、バドーを筆頭に全員、昭和のヤンキースタイルなのはどうかと思うが)
そのトップである人物は此方にガンを飛ばしながら、舌打ちをしているし・・・。
「ふふ、そういじけるなケンイチよ」
「・・・はっ」
「司とローズの子が生まれれば、リールも王都に顔を出せる。暫しの辛抱だ」
「はっ」
そう言えば、ローズは正式に次期当主内定しているのだが、初めての妊娠で不安を抱える娘の為、リールは未だ王都のケンイチの下に顔を出していなかった。
(まぁ、孫が生まれたら可愛くて離れられなくなる気がするけど・・・)
俺はそれを口にはしなかった。
「フレーシュ。本当にもう行くのかい?」
「はい。お嬢様のメイドとしてはお暇を頂いておりますので」
「でも、ミニョンも休み明けにはスタージュ学院に戻るのだし、その時に一緒に帰っても・・・」
「・・・いえ、課題も有りますので先に寮に戻らせて頂きます」
「そうかい、残念だな・・・」
「・・・」
「う〜ん、本当に残念だなぁ〜」
「・・・はぁ、春の休暇にはまた戻りますので」
「そ、そうかいっ。じゃあ、その時には一緒にお茶でも・・・」
デュックはどうにかしてフレーシュを引き止めようとしていたが、つれない態度で流されていた。
(年頃の娘を持つ父親って、ああいうものなのかなぁ・・・)
俺はそんなデュックに、もう直ぐ父親になる自身の将来の姿を見ている様で、若干寂しい気持ちになってきた。
「ええ〜ん、ちゅかさ」
「・・・何だ、ディア?」
「あのジジイが、あたしに変な首輪を着けたぁ〜」
「ジジイとは、失礼じゃのお」
「申し訳ありません。グリモワール様」
「お主も大変じゃのお?」
「はは、まあ丁度良い予行練習になります」
「ほっほっほっ、そうとも言えるのお」
「ええ〜ん、おねえちゃん、ちゅかさとジジイがいじめるう〜」
ディアは俺からは助けを得られ無いのを理解したらしく、フレーシュに助けを求めに行った。
(まあ、フレーシュも助けてはくれないだろうけど・・・)
そんなディアを尻目に、俺はグリモワールより、ディアに着けた簡易の拘束首輪の制御装置を受け取った。
制御装置では締め付け、電撃、爆破の3つの拷問が使用出来るとの説明を受けたのだった。
「此のボタンを押したら電撃が走るんですか?」
「そうじゃよ」
「へぇ〜・・・、ポチッとな」
「ふぎゃーーー‼︎」
「おおっ」
「・・・」
「っっっ・・・、なにすんだーーー‼︎」
「ああ、悪い悪い」
「ううう‼︎」
本当に作動するか確認の為に試しにボタンを押してみると、しっかりと電撃が作動した様で、ディアがふらつきながらも、俺へと詰め寄って来た。
(締め付けと爆破はどうかと思うが、便利だな此れ。リアタフテ領に着いてパランペールに契約魔法を使って貰っても着けとくか?)
俺がそんな不穏な事を考えていると、ディアは再びフレーシュの所に逃げて行った。
「では陛下。そろそろ出発させて頂きます」
「そうか、達者でな」
「ははあ〜」
国王に挨拶をし、馬車へと乗り込もうとする俺達。
そんな俺達を呼び止める声が、王都の街の方から掛かった。
「待って下さいですわ〜‼︎」
「ん?ミニョン?」
声の主はミニョンで、此方に駆けて来ていた。
肩で息をしながらデュックに何かを耳打ちしたミニョン。
其れを受けデュックは何処か寂しそうながらも、慈愛を含む表情でミニョンを抱きしめていた。
デュックから離れ馬車へと来たミニョン。
「私も一緒に帰りますわ」
「ミニョン、まだ休みなのに良いのか?」
「もちろんですわ」
「・・・お嬢様」
「さあ、行きますわよ」
「・・・分かったよ」
「ねえ、このへんなかみしたおねえちゃんだれ?」
「へ、変な髪ではありませんわっ。あら?この子、誰ですの?」
「ああ・・・」
俺はとりあえず馬車の中でディアの事をミニョンに紹介するのだった。
そうして王都を出発して2日後の昼過ぎ、学院でミニョンとフレーシュと別れ、ルーナと合流し屋敷へと戻った俺達を待っていたのは・・・。
「あら、司。もう任務は終わったの?」
「ああ、ローズ。何とかな」
「ふふ、そう。・・・お帰りなさい」
「ただいま、ローズ」
屋敷の入り口には、暖かそうなストールを肩から掛けたローズがいた。
出歩いて大丈夫なのか問い掛けると、心配しすぎとローズは笑った。
「あっ、ご主人様にゃっ」
「ああ、アン。ただいま」
「お土産にゃっ」
「・・・」
「にゃ?」
「・・・」
「もしかして、忘れたにゃ?」
「・・・」
「にゃ〜」
外の様子に気が付いたのか、屋敷から出て来たアン。
そのアンからは結局、お帰りの一言は聞けぬまま、肩を落とし屋敷の中へと戻って行った。
(いや、肩を落としたいのは俺の方だぞ・・・)
「ふふ、仕方ない娘ね」
「ああ・・・、まあ屋敷に戻ったって感じるよ」
「ふふ、そうね。さあ、司」
「ん?」
「今回の任務はどんな冒険だったの?沢山話を聞かせてね?」
「・・・ああ、ローズ」
そう言って俺の腕へと掴まって来たローズ。
俺はディアの事も含め、何から話そうかと考えたがとりあえず・・・。
「ローズ」
「え?・・・んっ、司」
其の唇に自身の其れを重ねたのだった。
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