第148話


「・・・」

「何じゃ?」

「最初に我々が此のミラーシへと来た時には、九尾の銀弧は居ないと聞きました」

「そうじゃったか、覚えぬ?」

「九尾の銀弧は、ディアは自らを、ディア=ノイスデーテと名乗りました」

「ふふふ、我が種族は長の一族のみに家名を名乗る事が許されておる。妾に家族は居らぬ」

「・・・」

「用件は終わりじゃな?下がれ」


 取りつく島も無いエルマーナ。

 ただ、不満を抑えて返答を得なければならない事がある。


「1つ確認したいのですが?」

「・・・何じゃ?」

「我々は今から其の九尾の銀弧を捕らえに向かいます」

「・・・」

「先程、エルマーナ様は追放したと仰いました。我々が九尾の銀弧を捕らえても、ミラーシ及び、狐の獣人の方々と争いになる事は有りませんね?」

「ふんっ」

「お答え下さい」

「・・・良かろう。好きにせよ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


 そうしてミラーシを後にした俺達。


「良かったのか、司?」

「はい。返答は取りましたし、後はディアを捕らえる事が出来れば、襲撃の指示の有無は確認出来ますから」

「そうか・・・」

「そういえば、ブラートさん?」

「何だ?」

「ディアの持っていた槍の事ですけど?」

「ああ、そうだったな。あれは、『血縫いの槍』だ」

「血縫いの槍ですか?」

「ああ、初代の手にしていた物と同じ物だろう。女よ」

「女?私の事ですか?」

「そうだ」

「・・・何か?」


 女、そう呼ばれフレーシュは其の涼やかな双眸に、明確な不快感を浮かべ応えた。


「あの槍で傷付けられた時、全身が重くなり身体が動かなくなっただろう?」

「・・・ええ。確かに、最初は毒を疑いましたが、何方かといえば魔法の様な感覚でした」

「ああ、其れが血縫いの槍の力だ。傷の深さによっては、暫く動けなくなるので注意が必要だ」

「他はどうですか?魔法はあの2種類だと考えて良いのでしょうか?」

「炎の魔法では他に直線的な軌道だがかなりの速度の魔法も有るな。後は詠唱に時間は掛かるが広範囲魔法も有る」

「なるほど」

「魔法への対応は任せて貰おう」

「フォール将軍」

「決着は貴殿の手で頼む、真田殿」

「・・・分かりました」


 流石に深淵より這い出でし冥闇の霧を使用した時の俺の状態を見て、俺に対応させるのは問題と感じたのだろう。

 自ら進み出てくれたフォールに感謝した。


「では、俺は魔法で牽制をするとしよう」

「ブラートさん」

「でしたら私は司様に支援魔法と射撃で援護を」

「・・・フレーシュ。ありがとう、でも無茶はするなよ」

「はい。其れでどう捕まえるつもりですか?」

「ああ、大森林だからな、其れを利用させて貰うよ」

「え?」


 俺達は作戦を確認し、森林を進んで行った。


「・・・きたのね、ちゅかさ」

「ああ、ディア」

「・・・」


 初めて会った時の子供の姿。

 遭遇したディアは其の姿で俺達を迎えたのだった。


「どうだ、投降しないか?」

「そうしたら、どうなるの?」

「・・・さあ?ただ、非道い事にはならないよ」

「ほんと?」

「ああ、此処に居る2人の方も、ディアと同じ罪人だからな」


 俺はブラートとフォールを指し伝えた。


「でもディアはいわれたとおりにしただけだよ?」

「ああ、でも其れでも罪は罪だ」

「そう・・・、なら、やっ」

「・・・っ」

「ふふふ、妾は自由の身じゃ」

「悪いな。其れは無理だ」

「なら、どうするのじゃ?」

「ディア。お前を捕らえる‼︎」

「其れは叶わぬ願いじゃ‼︎」


 こうして、俺達の再戦が開戦した。

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