第141話


「う〜ん、皆んな大丈夫かなぁ?」

「・・・」

「・・・でも、どうして急にこんな事になったんだろうなぁ?」

「・・・」

「どう思う、フレーシュ?」

「・・・真田様に分からないのでしたら、魔力で劣る私には解明出来ないと思いますが?」

「あ、あぁ・・・」

「・・・」


(いやぁ〜、空気が重いねぇ)


 本来なら、真冬にも関わらず深緑の木々に囲まれる此の大森林は、空気が美味い筈なのに、フレーシュと2人の此の状況は吸った空気の重さで、俺の足取りも重くしていた。


「真田様」

「ん?どうかしたか?」

「先程からかなり歩いている様ですけど・・・」

「ああ、そうだな。誘う道に従い進んでいるんだけど、まさか此れも罠なのかな?」

「・・・」

「え?フレーシュ?」

「・・・」

「ああ、居たのかって、離れすぎだろ。何かあったのか?」


 返事が無くなり、もしかしたら逸れたのかと思い確認すると、フレーシュは俺から10メートル近く離れていた。


「いえ、まさか誘う道に従ってるっていうのは嘘で、私を何処かに連れ込もうとしているのでは?」

「いやいや、そんな事しないからっ‼︎」

「・・・」

「いや、どんだけ信用無いんだよ」

「・・・自身の日頃の行動を思い返してみれば、自ずと分かるのでは?」

「・・・うっ」

「はあ〜、とにかく私はあのワガママ娘とは違うので、不埒な事は考えないで下さい」

「・・・いや、考えてないから」

「・・・」


 フレーシュは俺との距離を僅かに縮めたが、その距離はまだ5メートル程あった。

 日頃の行動に対する信用度かぁ・・・。

 俺は不満を口にする訳にもいかず、再び誘う道に従い踏み出した。


(やはり九尾の銀弧が存在して、その存在が露見するのを嫌がったのかな?)


「やっぱり、九尾の銀弧って居るのかな?」

「どうでしょう?言い切れないと思いますが」

「え?フレーシュは居ないと思うのか?」

「居ないというよりは、決め付けるのは早計かと思うだけです」

「そうなのか?」

「ええ、真田様は通信石をお持ちでないですか?」

「ああ、陛下から預かってるぞ」

「それでしたら、救助を呼ぶ事が可能なのでは?その状況で彼等も私達を罠に嵌める意味は無いでしょう」

「そうかなぁ」

「ええ、次回の来訪に合わせて準備をして、ミラーシで捕らえ人質にして、交渉の材料にするなら分かりますけどね」

「なるほどなぁ。ただ俺とブラートさんが居ないと救助に来れないのでは?」

「そうなれば最悪、大森林を焼き尽くしてしまうでしょう」

「・・・」

「当然でしょう?真田様は貴族婿とはいえ、既にローズ様の懐妊もあり役目は果たしています」

「・・・」

「他の者も罪人や人形、其れに売女の娘ですから・・・」

「・・・」


 自身も関係しているのに、恐ろしい事を口にするフレーシュ。

 どう聞いてもその内容は救助とは言えないのだが。


(あと、自ら売女の娘なんて口にする必要ないだろうに・・・)


 ただ、事情の分からない俺が、それに対し口出しするのは間違いだろう。


(そもそも、俺はそれを聞いて叱りつける様な、無駄に熱い人間でもないのだし・・・)


 そう思い、俺は聞き流す様にし歩を進めた。


「・・・ひっく」

「ん?」

「・・・どうかしましたか?」

「いや、今声が聞こえた様な?」

「声ですか?」

「・・・うぅぅ」

「ほら?」

「そうですね、高い・・・、子供の声の様な?」

「ああ、泣き声だと思うんだが」


 何処からか風で流されてくる、子供のものと思われる泣き声。


「・・・どうしますか?」

「あぁ、でも道から外れるからなぁ」

「・・・なら放って置くのですか?」

「・・・」


 いつの間にか俺の隣に来ていたフレーシュ。

 其の何時も涼やかな横顔は、何処か軽蔑に近い冷たさが浮かび始めていた。


「行ってみよう」

「良いのですか?」

「流石に子供を放っては置けないさ」

「・・・はい」


 そうして声に向かい移動を開始した俺とフレーシュ。

 5分程歩いた先其処には・・・。


「え〜ん、お、お母さん?」

「・・・此の子は」

「お母さん、ちがう・・・。ひっく」

「・・・」

「わあぁぁぁん」


 俺とフレーシュの顔を見て、待ち人では無い事を知り、再び泣き出してしまった子供。

 其の子は、狐の獣人の女の子だった。

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