第140話


 梵天丸と別れた後、ミラーシへと出発した俺達一行。

 再訪したリエース大森林で今回は2本しか道が見えなかった。


「あれ?ブラートさん?」

「どうした、司」

「はい、今回は2本しか道が見えないのですけど」

「ああ、そういう事か。構わんさ、連中は常に魔法で里への道を惑わせるのだ」

「そうなのですか」


 そういう事ならと、俺は誘う道の右側を選び、大森林へと踏み入った。

 歩く事1時間程で、今回は前回の様な花畑でなく、腰の高さ迄伸びた草むらに着いた。


「此処の様ですね」

「そうだな」

「・・・司様、どの様に見えているのですか?」

「う〜ん、説明しづらいなぁ」

「ルーナには全く見えないのですが」

「そうなのか?俺も意識して見てる訳ではないからなぁ」


 そんな事をルーナと話しながらも魔力の渦へと近付き、掌に魔力を集中させた俺はミラーシへの扉を開いた。

 今回は特に労する事無くミラーシへと辿り着いた俺達。

 集落の入り口の衛兵は俺達が視界に入ると、あからさまに不機嫌な表情を浮かべたが、エルマーナへの謁見の申し込みをすると、俺達に此処で待つ様に告げ、集落の奥に向かって行った。

 前回と同じ若い男を連れ戻って来た衛兵。

 俺達は男の案内で謁見の間へと来た。


「またお前達か、人族とは実に暇な種族なのじゃな?」

「・・・」

「そういえば、人族以外も幾らか居たか」

「お久しぶりでございます、エルマーナ様」

「ふんっ、それで何の用じゃ?」

「先ずは外交関係の件についてですが?」

「その件については、もう暫し待つのじゃ」

「ははあ〜」

「用件は終わったな?下がれ」

「いえ、今回はもう一つお話ししたい事があります」

「ん?何じゃ?」


 話の内容に思い当たる節があるのか、より不機嫌な空気を其の身から発し、俺へと威圧感を向けてきたエルマーナ。

 だが、正式な任務として引き受けた以上は、此の程度の事で引き下がる訳にはいかなかった。


「九尾の銀弧の件ですが・・・」

「その件は前回返答した筈じゃ。貴様、妾を愚弄する気か?」

「いえ、滅相もありません」

「ふんっ」

「ただ、前回は私の任務は此のミラーシに到達し、エルマーナ様へ我が主人からの親書をお届けする事でした」

「・・・」

「ですが、先日、正式に九尾の銀弧の発見、又は存在しない証拠の入手を命じられました」

「・・・」

「出来れば、エルマーナ様より一筆頂ければと思いまして」

「妾に一筆じゃと?」

「はい。今回の外交関係の件についての希望等も含めて、その序ででも構いませんので」

「ふんっ、必要ないのじゃ」

「・・・でしたら一つお願いがあります」

「何じゃ?」

「出来ればミラーシを捜査させて頂きたいのですが?」

「ならぬっ‼︎」

「・・・はぁ、分かりました。今回はこれで失礼させて頂きます」

「ふんっ‼︎」


(流石にこれ以上踏み込むのは無理だろうなぁ・・・、ただ反応を見るにやはり何か隠してるのは間違いないと思うんだが・・・)


 此の状況では他に出来る事も無く、俺達は謁見の間を後にし、集落の入り口を外に出た。


「どうやら、九尾の銀弧は本当に現代に存在する様だな」

「秘匿している事は其れですかね?」

「ああ、多分だがな」

「う〜ん、せめて認めてくれれば、此の任務を終える事が出来るのですけどね」

「何だ、司。捕まえる気は無いのか?」

「え?」

「ん?」


 認識のズレだろうか、ブラートは俺が九尾の銀弧を捕らえるつもりだと考えていた様だ。


(だがなぁ、危険もさる事ながら、此の件はそもそも被害に遭った奴隷商も違法行為をしてるからなぁ・・・)


「ふっ、お人好しだな」

「え?」

「どうせ、賞金首になった背景にでも考えを巡らせているのだろう?」

「っ⁈知っているのですか、ブラートさん?」

「・・・当然だろう。情報は俺達の様な存在にとって、重要なものだからな」

「そうですか、ブラートさんはどう思いますか?」

「俺なら此の任務自体受けんがな」

「うっ」

「ふっ、だがな、あまり気に病む必要は無いさ」

「・・・」

「たとえ司が九尾の銀弧を捕らえないとしても、手に入れた情報を使い別の者が任務を遂行するだろう。情報の重要性を考えれば、結局それは司が捕まえる事に率先して協力している様なものさ」

「そうなりますよね」

「それならば、可能なら捕まえて、より多くの報酬を得た方が得かもな」

「なるほど」


 合理的って言えるのかなぁ・・・。

 正直、ミラーシとリアタフテ領の距離を考えると、余計な恨みは買いたくないのだが、結局は任務を達成すれば、情報提供にしても捕らえるにしても、狐の獣人達に恨まれるのは間違いなかった。


「どうする、司?」

「とりあえず大森林を出て野営を張りましょうか?」

「そうだな」


 そうして大森林の外へと移動を始めた俺達。

 今回の帰りの先頭は俺で、誘う道に従い進んでいた。


「此れってどういう魔法なのですか?」

「そうだな、幻術の類なのだが、見える道につあては連中にとって不可抗力の様なものだ」

「そうなのですか?」

「ああ、扉から発生する魔力が漂っているのさ」

「あれ?でも彼等はそれが無くても、扉の場所が分かるのですか?」

「其の必要が無いのさ。連中はミラーシより出るつもりが無いからな」

「はぁ・・・」


 良く分からない連中だなぁ、あんな狭い集落で人族より長い人生を過ごすなんて、俺には理解出来なかった。


「良く分からない種族なのですねぇ」


 独り言の様に空中に消えた俺の声。

 後ろを振り返ると其処には誰も居なかった。


「あれぇ、どうしたんだ?」


 さっきまではブラートから返事があったのだが・・・。


「・・・でもどう考えても此れは、狐の獣人達の仕業だろうな」

「・・・」

「さてと、どうしたものかなぁ。とりあえず大森林から出た方が良いのかな?」

「・・・そうですね」

「え?・・・フレーシュ?」

「私には道とやらは見えないので是非案内して下さい」

「・・・あ、あぁ」


 俺の背後、詰まりは先程迄進行していた先。

 其処にはフレーシュが静かに立っていたのだった。

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