第142話
「え〜と、お嬢ちゃん?」
「うわぁぁぁん‼︎」
「あのね、話を聞いて欲し・・・」
「えぇぇぇんん‼︎」
「・・・はぁ」
「ぐすっ」
「あ、泣き止ん・・・」
「うあああん‼︎おごっだあぁぁぁ」
「いや、怒っては無いよ」
途方に暮れてついつい吐いてしまった溜息が、自身へのものだと感じたのだろう。
女の子はより激しく泣き出してしまった。
(5歳位かなぁ?エルマーナと同じブロンドの毛並みだなぁ)
マゴマゴしつつも、子供を観察していた俺にフレーシュから冷たい声が掛かった。
「・・・最低ですね」
「うっ、すいません」
「あとで此の子に謝ってあげるのですね」
そう言ってフレーシュは泣き続ける子供の側にしゃがみ込み、頭を撫でながら語り掛け出した。
「大丈夫よ。もう一人じゃないからね?約束ね?」
「うあぁぁぁ‼︎」
「お母さんとはぐれたの?」
「おかあさあん、いない」
「そう。それは大変ね」
「うん、ぐすっ」
「いつからいないの?」
「ううう」
「そうかぁ、分からないのね。でも大丈夫。見つけてあげるからね?」
「ぐすっ、おねえちゃんが?」
「ううん、おねえちゃんとあの男の人と・・・、お名前は?」
「・・・」
「あなたも一緒に行くから、お名前を教えて欲しいの?」
「いっしょ?ほんと?」
「ほんとよ。もう一人じゃないって約束したでしょう?」
「うん、した」
「でしょう?じゃあ、ずっと、あなたじゃイヤでしょう?」
「ヤッ」
「でしょう?」
「・・・ディア」
「そうディアね。私はフレーシュ」
「フレーシュ?」
「そうよ、あの人が司」
「ちゅかさ?」
「いや、司だ」
「うっ、うぅぅぅ」
「あ、いや・・・」
せっかく泣き止んだディアと名乗った子供についつい突っ込んでしまい、ディアは再び目尻に涙を溜め始めてしまった。
「・・・」
「ごめんよ、ディア」
「ぐすっ、・・・司嫌い」
「そうねぇ」
「ねぇ〜」
「・・・」
いやぁ、嫌いって言う時は実に綺麗に俺の名を発音出来たものだなぁ・・・、ぐすっ。
「どうする?ミラーシに移動するか?」
「そうですね。それが一番かと・・・」
「ヤッ」
「え?イヤって・・・」
「あんよいたいっ」
「そうかぁ、ならもう少し休むかな」
「そうですね」
「うんしょっ」
「・・・」
ディアは俺とフレーシュの会話を確認し、地面にぺたんと座り込んでしまった。
「ぐぅ〜・・・」
「ん?」
「うぅぅ、おなかへったぁ」
「そう?何か有ったかしら?」
「ううう」
ディアはお腹をさすりながら、また悲しそうな表情になってきていたが、フレーシュのアイテムポーチの中にはめぼしい食べ物は入っていない様だった。
(何か有ったかかなぁ・・・、あっ)
「ディア?」
「・・・なあに?」
「これ食べないか?」
「なにこれ?びらびらのおむすびさん?」
「其れは・・・、八ツ橋」
「ああ、王都で買ったんだ」
「ううう、おいしい?」
「ああ、食べてみな?」
「ううう」
多分初めて見た事だろう。
最初は口にするのを躊躇っていたディアだが、空腹に耐えられなかったのか、結局俺の手から生八ツ橋を取るのだった。
「ううう、あ〜ん」
「・・・」
「もぐもぐもぐ」
「・・・」
「う〜ん?」
「・・・」
「もういっこ」
「ああ、どうぞ」
「ありがと、ちゅかさ」
「・・・ああ」
生八ツ橋はディアの口に合った様で、おかわりを求めてきた。
「ふぅ〜、これで少しは落ち着くかな?」
「そうですね」
「・・・そういえばフレーシュ」
「何ですか?」
「子供をあやすの上手いんだな?」
「そんな事、無いですよ」
「そうか、中々のものだったと思うけど?」
「まあ、日頃からワガママな子供のお世話をしてますから」
「は、ははは・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・妹が居るんですよ」
「え?」
「一人。兄も居ますけど」
「そうだったのかぁ・・・」
兄と妹ねぇ・・・。
(まあ、触れない方が良いのだろうな)
「ごちそうさまでした」
「美味かったか?」
「うんっ、うまかった」
「そうか、なら良かったよ」
「ありがと、ちゅかさ」
「いや、大丈夫だよ。それでなディア?」
「ん?なに?」
「実はそろそろお家に帰ろうと思うんだけど?」
「ちゅかさとフレーシュ、かえるの?」
「いや、ディアのだよ」
「あたしの?」
「ああ、歩けるかい?」
「う〜ん?」
「無理なら、俺がおんぶして行くけど?」
「おんぶっ‼︎」
「ああ、分かったよ」
「大丈夫ですか?」
「ああ、時間の問題もあるしな」
「そうですね」
「おんぶっ、おんぶっ、おんぶっ」
「ああ、おいで?」
「うんっ」
腰を下ろした俺の背中に飛び乗ってきたディア。
俺達は誘う道に戻り、森を奥へと進んで行った。
「でも、辿り着けるかな?」
「そうですね、ただ動かないと食料も限りはありますから」
「次回以降はもう少し余分に持って来るかな」
「そうした方が良いかと」
「だよなぁ・・・、ん?」
不安を抱えつつも、誘う道を進んでいた俺達。
俺達が進む誘う道の先から、金属音が聞こえてきた。
「これって・・・?」
「ええ、確か・・・」
「だよなぁ」
「・・・誰か居るのか?」
「その声は・・・、ブラートさん?」
「ん、司か?」
「司様っ」
「ルーナ」
「無事だったか、真田殿」
「フォール将軍」
俺達の視線の先から現れたのは、ルーナ、ブラート、フォールの3人だった。
(やはり、フォールの制御装置の音だったか・・・)
俺は先程、聞こえてきた音の発生源であるフォールの制御装置に目を向けた。
「司様、ご無事で良かったです」
「ああ、ルーナもな」
「あれ?その子供は・・・?」
「ああ、この子は・・・」
「司‼︎」
「え⁈・・・って、ブラートさんなに・・・」
皆にディアの事を紹介しようと思った俺に向かって、怒声を上げたブラート。
刹那、短縮詠唱で魔法陣を形成し此方に駆けて来た。
「なっ⁈」
「はあぁぁぁ‼︎」
「・・・ちっ‼︎」
「な、な・・・」
ブラートの生み出した雷の鞭は、俺の背中に向け振るわれた。
然し、其れは宙を斬り裂いただけで、ブラートの手元に戻った。
「な、何するんですか、ブラートさん?」
「・・・」
「ち、ちょっと」
「司様‼︎」
「な、何だよ、ルーナ」
「早く構えて下さい‼︎背後です‼︎」
「えっ、背後・・・?」
ルーナ迄も俺に怒声を飛ばし、其の手には銃をアイテムポーチから出していた。
見るとルーナだけではなく、フォールも其の手に愛刀である、妖刀白夜を握っていた。
(俺を狙ってきたブラートは前方だぞ、其れを背後って?其れにルーナ、フォール、ブラートは同じ方向を見ているし・・・)
俺は3人の視線の先、背後を振り返った。
「な、な、何だ・・・?」
「ふふふ」
「何者だ?」
「妾か?妾はディア。ディア=ノイスデーテ」
「ディア?え?」
「ふふふ、間の抜けた顔をしているな、ちゅかさ?」
「・・・っ⁈」
「ふふふ」
振り返った俺の視線の先。
ディアと名乗った、艶やかな成熟した狐の獣人。
其の毛並みは濁りなき雪の白銀の輝きを放ち、九本の尾を持っているのだった。
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