第134話


「此処は、まだミラーシでは無い?」

「よく見てみろ」

「え?ああ、彼処・・・」


 光の中へ入った影響で、目が若干眩み視界が狭くなっていた俺は、ブラートが指し示す先に集落を見つけた。


「意外に狭いんですね?」

「ああ、連中は同族間による子作りしか認めてないからな」

「狐の獣人は人口が少ない?」

「そう言う事だ」


 なるほどな、気位の高い種族という事だし、他の種族を見下しているのだから、同族が他種族とまぐわうのは許せないのだろう。

 あとは、魔力の遺伝も考える必要があるのだろうしな。


「さあ、行くぞ」

「はい」


 ブラートが先を行き、その後に俺達は続いた。

 集落の入り口迄着くと、軽装だが其の佇まいから武人であろう事が分かる、狐の耳と尻尾を持つ獣人の男が立っていた。


「・・・奇妙な集団だな?此の里に何の用だ?」

「すまんが、里の長に謁見させて頂きたい?」

「ほお、貴様は・・・」

「・・・」


 衛兵は俺、フォール、フレーシュは最初に一瞥しただけで、以降全く視界には入らない様にしたが、ブラートに対する反応は違い、何かに気づいた様に頭の先から爪先迄を無遠慮に眺めた。


「頼めるか?」

「そうだな、貴様と其処のお前」

「・・・っ⁈」

「・・・司様が通れないのなら、ルーナは通る事はありません」

「ルーナ・・・」


 衛兵がミラーシへの入場に許可を出したのは、ブラートとルーナだった。


(要は人族に許可は出さないという事か。だが良くルーナの事を見破ったなぁ・・・)


「司」

「はい。すいませんが、ミラーシの長様に我がサンクテュエール王より親書を届けに参りました。出来れば謁見を願いたいのですが?」

「・・・」


 俺はアイテムポーチより、国王から預かった親書を取り出し、衛兵に示した。

 衛兵はしばらくの間其れを眺めたが、一度も俺自身を見る事は無く、待っていろと短く告げ里の奥へと向かって行った。


「どうなりますかね?」

「さあな、ただ里を束ねる長がそこまで愚かな事は無いだろう」

「だと良いんですけどね」

「司様、あれ」

「ん?どうしたルーナ?」


 ルーナの呼び掛けに指し示された先を見ると、狐の獣人の子供達が此方を恐る恐る見ていた。

 俺がその中の1人の女の子に、少し無理して手を振ってみると、その子は子供達の中でも少し年上であろう男の子の後ろに隠れてしまった。


「司様・・・、幼女趣味?」

「違うわいっ‼︎」

「はぁ・・・」

「・・・ぐすっ」


 俺はルーナからの辛辣なツッコミに、瞳から汗を流してしまったが、子供達は恐怖は感じている様だが、其れを勝る好奇心があるらしく、その場から立ち去る事はしなかった。


(ていうか、さっきからあの子達が見てるのはフォールなんだよな)


 やはり、子供達にはフォールの足の制御装置が珍しく映るらしく、何やら囁き合っていた。


「ふっ・・・、子供とは無邪気なものだな」

「ええ、其処は我々人族と変わりませんね」

「ああ、・・・どうやら戻って来た様だな」

「え?」


 フォールの言葉に視線を里の奥へと向けると、其処から先程の衛兵ともう1人若い男の獣人が歩いて来た。


「長より許可が出た。決して怪しい行動は取るなよ」

「はい、ありがとうございます」

「・・・」


 俺は礼を述べ、案内する男の後に続いた。

 着いた先は、簡素ながらも堅固な造りであるのが見て取れる建物だった。

 其の堅固さに似合う扉を案内役が開き、中へと進んで行くと、内装は対照的で耽美な雰囲気の、先程迄いた大森林の自然の中とは別の世界観に彩られていた。

 そして謁見の間であろう、其の一番奥の金銀宝石の装飾の施された、ソファ型の玉座に煌めく金色の長い髪を持つ女性が座っていた。


(あれは・・・、尾が3本?)


 其の女性は自らの尾を見つめながら毛繕いしており、其の瞳は長いまつ毛で隠れていた。

 俺達の到着にも顔を上げずに、自らの尾を撫で続ける女性。

 彼女が長なのだろう、ただ此方から声を掛ける訳にもいかず困っていると、案内役の男が親書を出す様に言ってきた。

 俺が男に親書を渡すと、男は女性の下へ其れを持って行き手渡した。


「・・・はぁ〜」

「・・・」


 此方にも聞こえる様にあから様な溜息を吐き、親書に目を通した女性はやっと此方に視線を向け艶っぽい、然し高圧的なものを感じる声で最短距離の結果だけを告げてきた。


「此のミラーシに、九尾の銀弧なる者は居らぬ」

「え?」


 先制パンチと言えるだろう。

 当然、其れは額面通りに受け取る訳にはいかない発言なのだった。

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