第133話
「な、な・・・、ぜ?」
「今お前は魔法を詠唱し、魔法陣を描きかけた」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・」
「詰まりは掌に魔力を集中させていた訳だ」
「・・・ふぅ」
「其れに対し俺はマジックシール、魔封の術によりお前の魔流脈を流れる魔力の流れを、絡めて縺れさせたのだ」
「・・・」
「魔封の術とは詰まりは、魔力の流れに障害を与える魔法となるのさ」
「此れから、どうすれば?」
俺は言い様の無い脱力感と不快感が僅かに治り、膝をつきながらも当初の目的である魔力の集中に取り掛かる事にした。
「先程言った筈だ。お前は今、魔力を掌に集中していた。其れを俺が阻害したんだ」
「はい」
「今お前の掌には流れが止まった事で、魔力が集中し魔法を発動出来ずに溜まった状態だ」
「あっ⁈」
「今迄より確かに感じられるだろう?」
「は、はい、此れが魔力なんですね」
確かに今、掌の中に血管が脈打つかの如く、其の血肉の奥の、骨髄の更に奥深くの底を流れ循環する存在を感じられた。
(あれ、でも・・・)
其れの先、いや奥に何か違和感を感じ、集中する程に違和感の下に引かれていた。
「・・・」
「どうした?」
「何か奇妙な違和感がありまして?」
「きっと、魔封の術の絡まりの所為だろう」
「なるほど・・・」
「・・・」
そう言う事か、無意識の内に不快感の解消をしようと考えたのかな?
そんな風に考え、とりあえず引かれる先へと抵抗せず向かう事にした。
そうして俺は意識を魔力の集まりに集中し、掌から腕を抜けて行き、肩を過ぎ心臓へと至り、魔力の流れの縺れへと辿り着いた。
(此れは・・・、かなり縺れているが、解けない事も無いか?)
魔封の術ってこんなに単純な物なのか?
縺れに対し、労わる様に解し始めた俺にブラートから声が掛かった。
「おい、何をしているんだ?」
「いえ、魔力の縺れを解く為に解している所です」
「・・・な」
「ちょっと、待って下さい」
「・・・」
ブラートには悪いが、集中を切らさない為に話を打ち切り、魔力の縺れを解す事に取り掛かった。
縺れの内から揉み解す様に・・・。
少し柔らかくなってきたかなぁ・・・。
此処と此処を同時に伸ばす様に・・・。
此れで・・・、どうだ?
(良しっ、解けたな‼︎)
「な⁈」
俺が魔力の流れの縺れが解けるのを感じると同時に、掌より魔法陣が描かれ、其処から闇の狼が生み出された。
「ふぅ〜・・・」
「・・・」
「解けたみたいだな・・・。あっ、そう言えば、ブラートさん?」
「・・・」
「ブラートさん?」
「あ、ああ・・・」
俺の呼び掛けに最初、固まっていたブラートだったが、再び呼び掛けると気の抜けた返事を返してきた。
「何か話があったのでは?」
「・・・」
「え〜と、ブラートさん?」
「ああ、すまんな。流石に呆気にとられてしまってな」
「はぁ・・・」
「見事だった。俺も人族より永く時を刻んで来たが、こんな事を行なったのはお前が初めてだ」
「そうなのですか?」
「ああ、魔流脈が強い者でもマジックシールを喰らうと、魔力の循環は完全に停止してしまうからな」
「はぁ、でも私も止まっていたと思うのですが?」
「完全では無かったのだろう。縺れの内深くの、僅かに動く箇所に辿り着き、見事解き切るとはな」
関心しきりの様子で俺へと賛辞を送ってくれるブラートに、俺はむず痒さを感じていた。
「・・・名は?」
「え?」
「お前の名だ」
「え、え〜と、真田司ですけど・・・」
「そうか、良くやった、司」
「っ⁈」
突如、俺の名を尋ねてきて、其の名で呼んできたブラート。
俺は此処に至ったにも関わらず、名を知らなかった事に驚いたが、何より名を呼ばれた事が驚きだった。
(まあ、別に構わないのだけどなぁ・・・)
「司・・・」
「は、はい・・・」
「流石にもう魔力の流れが見えるだろう?」
「そうですね、見えると言うよりは、はっきりと感じられる感じですかね?」
「なら、此の場の魔力の流れの違和感は分かるか?」
「違和感ですか・・・、あっ」
確かにブラートの言葉通り、此処は魔力の流れが一箇所に集まって行っており、其処には魔力の渦が出来ていた。
「分かった様だな?」
「はい」
「其処が扉だ。其れに合う様に魔力で鍵を成形するんだ」
「分かりました」
ブラートに返事をし、俺は魔力の渦へと掌を向け、魔力を集中し始めた。
俺の掌に集まって来る魔力。
渦の形に合う様に魔力の形を変形させて行くと、正に鍵穴に鍵を差すかの様に、俺の掌の魔力が渦の中心へと進んで行った。
すると、渦の中心から小さな、然し強い煌めきを持つ光が生まれた。
光は最初、指先ほどの大きさしか無かったが、徐々に広がり人が通れる位の大きさになった。
「成功した様だな」
「では、此れがミラーシへの道ですか?」
「ああ、すぐに閉じてしまうし、早速通り抜ける事にしよう」
「はい」
そうして、成功の喜びもそこそこに、俺達はミラーシへ向けて出発するのだった。
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