第132話
それから俺の魔力操作の練習は日が落ちる直前まで続いたが、結局その日は鍵を作成するには至らなかった。
「すいません」
「構わん。それと其の眼はもう閉じて良いぞ」
「はい・・・」
ブラートに許可を得て、俺は混沌を創造せし金色の魔眼を閉じた。
実はブラートより此の状態の魔力の種の方が、鍵に至れる可能性が高いと言われ眼を開き続けていた。
(そもそも、人族が使うのは想定していないらしいからなぁ・・・)
ただ、成果は得られなかったがなぁ・・・。
「落ち込む事は無いさ、真田殿」
「フォール将軍・・・、すいません国の事もあるのに、時間を取らせてしまって」
「いや、構わないさ。そもそも、冬のモンターニュ山脈越えは果敢な挑戦では無く、命懸けの無謀な行為だからな」
「そうでしたか・・・」
「司様、野営は此処で張りますか?」
「そうだなぁ・・・、どうなんですかね、ブラートさん?」
「構わんだろう。もし連中に見つかったなら、状況を説明すれば良い」
「話が通じる人達なのですか?」
「ああ、決して好戦的な種族では無い。寧ろ、其の魔力の高さから、自分達を知性が高い特別な存在という気位の高さを持ち、対外的な問題は交渉で解決する傾向にある」
「へぇ・・・」
パランペールからは魔力の高さと、それに伴うプライドの高さは聞いていたが、交渉を重んじるという話は初耳だった。
その新事実を教えられ、この人と話していると、今迄知らなかった知識を得られて面白いなと思った。
「ただ・・・」
「ただ?」
「其の交渉の多くは、自身の能力の高さから尊大な振る舞いで、高圧的なものな傾向があるがな」
「・・・」
それは決して交渉で物事を解決するとは言え無いと思うのだが・・・。
「大丈夫なのでしょうか?」
「まあ、安心しろ。連中は実力を持つ者には、一定の敬意を払って対応する」
「はぁ・・・」
あまり、安心出来るフォローでは無かったが、とにかく俺が鍵を作成出来る様になるしか無いのだろう。
そう思い、ルーナとフレーシュが野営と夕食の準備を進める中、再び魔力操作の練習を始めるのだった。
そして翌日、魔力操作の練習を始め既に日は高くなり始めていたが、成果を上げる事はおろか、進歩も感じる事が出来なかった。
「ふぅ〜・・・」
「上手くいかないな」
「はい、すいません」
「・・・構わんと言っている」
「あっ、はい・・・」
「・・・」
「あのぉ・・・」
「何だ?」
「魔力操作のコツってありますか?」
「無いな」
「そうですか・・・」
「珍しい事なのだ」
「え?」
「お前の様な高等な魔法を自ら創造し詠唱出来る者が、己が魔力の流れを意識しないのは」
「そうなのですね」
まあ今更落ち込んでも仕方ないだろう。
そう思い再び練習に集中しようとした俺に、ブラートから意外な提案があった。
「だが、此れ程の才を持つ魔導士が、何時迄もこんな事をするのもあまり良い事とは言え無いか」
「はぁ・・・」
「少し荒療治だが、方法があるがやってみるか?」
「方法あるんですか?」
「ああ、だが言った様に荒い方法だし、あまり使いたくは無い」
「じゃあ何故?」
「はぁ・・・」
「あ、あ、あの、え〜と・・・」
「言った通りだ。才ある魔導士が魔術に対し、変な苦手意識を持つのは勿体ない事だ」
「は、はい」
「どうだ、やってみるか?」
「はい、お願いします」
ブラートが言う荒療治がどんなものかは分からなかったが、俺も何時迄もこんな成果を感じられない事を続けたくはなかった。
だが、俺が提案を受け入れた事にルーナから、異が唱えられた。
「司様、やめて下さい」
「え?何故だ、ルーナ?」
「荒療治など使う必要はありません。司様なら必ず魔力を操作出来る様になります」
「いや、ルーナ・・・」
「そもそも、其の方は信用に値するのですか?」
「・・・」
「ルーナっ、すいません、ブラートさん」
「構わんさ。事実、俺はお前達の仲間では無い」
「あ、いや・・・」
「やる、やらんはお前の自由だ。気が変わったならそれで構わん」
「いえ、やります。お願いします」
「司様っ‼︎」
「ルーナ、俺を信じてくれ」
「・・・」
「どんな荒療治だろうと必ず成功してみせる。学生トーナメントもこの間の戦争も、今迄、困難を乗り越えてきたんだ」
「・・・」
「今回も必ず、成功してみせる」
「司様・・・、はい」
俺の覚悟にルーナはそれ以上の意見はして来ず、俺とブラートの行方を見守った。
「お願いします」
「其れでは、先ず何か魔法を使用してみろ」
「分かりました」
ブラートからの指示に俺は構え、詠唱に入った・・・。
「暗闇を駆る狩・・・」
「マジックシール」
「・・・なっ⁈」
「・・・」
「あ、あ、あああーーー‼︎」
「司様‼︎」
荒療治、ブラートの言う方法は俺の魔法を封じる事だった?
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