第131話
「それじゃあ早速魔法を教えて貰えますか?」
「ああ、そうだな。先ずは魔力を掌に集めてみろ」
「え、え〜と・・・、出来れば魔法の名を教えて欲しいのですけど」
「・・・名などは無い」
「え⁈」
「此の場に掛けられている魔法の扉を察知し、其処にある鍵穴に合う魔力の鍵を作り出すんだ」
「・・・」
ここに来て面倒な事になったなぁ・・・。
俺の使用出来る魔法は、大魔導辞典に記したものだけで、此方の世界の基本的な魔法などは過去に挑戦したが、何も詠唱する事は出来無かった。
なので、未だに魔力を意識して操る事は出来無かったのだ。
(ただ、不味いなぁ。言葉通りの内容だと鍵の形は場所毎に違う様だな。そうなると魔力を操れないと扉を開ける事が出来無いのか)
「う〜ん・・・」
「・・・何をしている。魔力は通常の循環しかしてないぞ」
「えっ、見えるんですか⁈」
「ああ、お前の身体の奥底深くからは、最高級の質を持つ魔力が溢れ出て、其の身を常時余す所無く駆け巡っている」
「すいません」
「・・・」
「魔力って、どうやったら一箇所に集める事が出来るんですか?」
「魔法を詠唱する時に行っているだろう?」
「実は特別、意識した事が無いんです」
「・・・なるほどな」
「・・・」
「とりあえず、魔法を使用してみろ」
「は、はい」
俺の問い掛けに特段の答えは返さず、1人納得したブラート。
ただ、多分俺達一行の中で、魔法について1番頼れるのは此の男だろう。
ならば従うしか無い訳で、俺は暗闇を駆る狩人を詠唱した。
俺の詠唱した魔法陣から生み出された闇の狼は、足下に伏せ大人しく待機した。
「・・・これ程複雑な詠唱が出来て、体内を流れる魔力を集中出来んとはな」
「すいません・・・」
「いや、気にするな」
「え⁈」
「・・・どうした?」
「い、いえ・・・」
(どうしたも無いだろう‼︎自分が滅茶苦茶意外な反応をしといて・・・)
俺の謝罪に気遣いの言葉を掛けてきたブラート。
俺の驚きに満ちた反応に、澄まし顔だろうか?とにかくなんでも無い表情で問い掛けてくるのだった。
「今の詠唱で間違い無くお前は魔力を掌に集中させていた。其の感覚は感じられなかったか?」
「はい」
「・・・」
「無理なんですかね?もしそうなら、ブラートさんの魔法でミラーシに連れて行って貰えますか?」
「サンクテュエールの王との契約には、お前に扉の鍵を作れる様にさせる事も含まれている。そもそも、無理とは決まって無い」
「はぁ、ただ最悪の場合は、陛下には私から話をしますので?」
「・・・つまらん卑下をするな」
「・・・」
「人には決して叶わん事もある。然し、此れはそうでは無い」
「は、はぁ・・・」
「まあ良い、時間は幾らでもある。気長にやれば良い」
「・・・」
そう言って腰を下ろして、長期戦の構えに入ったブラート。
フォールなどは国の事もあるので助け船を期待したが、其れに倣う様に此方も腰を下ろしてしまった。
ルーナとフレーシュにしても、腰を下ろす事は無かったが、其の姿勢は楽にしていた。
(はぁ・・・、とにかくやるしか無いのか)
俺はとりあえず混沌を創造せし金色の魔眼を開いた。
此の状態の方が魔力の循環の質量が良いらしく、身体能力の向上が感じられた。
「・・・前にダンジョンで見た時も其の眼をしていたな?」
「は、はい。此の状態の方が魔力循環が良いらしくて」
「いや、正確には違うがな」
「え?そうなのですか?」
「ああ、質量に速さも変わっていない。ただ魔力の種が違うがな」
「魔力の種ですか?すいませんが、其れってどう言う事ですか?」
「そもそも、人族とその他の種族では使う魔力の種が違うのだ」
「そうなのですか?」
「ああ、其の理由は其々の種族の《起源種》の違いにある」
「起源種ですか?」
「ああ、人族の起源は其の名のまま起源種だが、人族が亜人と呼ぶ者達や魔族は違う」
「亜人と魔族が同じ起源種なのですか⁈」
「ああ」
新事実と言って良いのだろう。
俺とブラートの会話にこそ割り込んでこなかったが、他の者達も一様に驚いていた。
まあ、亜人の研究者では無い俺には、驚き以降の追求は出来なかったのだが・・・。
「我々の起源種は其の名を創造種という」
「え?今何て・・・?」
「創造種、其れが名だ」
「創造種・・・」
(何でだ?偶然の一致か?)
其の昔、俺が抱き演じていた設定である創造種。
ブラートの口から語られたのは其の名だった。
「お前が其の眼を開いた時に流れる魔力は、創造種の其れと同種の物だ」
「・・・っ⁈」
「不思議なものだな。お前はどう見ても人族なのだが」
「・・・」
混沌を創造せし金色の魔眼は正に、俺の厨二設定産物で、創造種を演じる上で欠かせない物だった。
(何で、今になってこんなにも心を乱される事実を知らされるんだっ‼︎)
此の世界に来てローズに出会い、愛し合いもうすぐ子供も生まれてくるのに・・・。
確かに召喚され、其のままの状況に流される様に過ごしたのは不用意なのだろう。
だけど此のタイミングは酷すぎる。
「司様」
「・・・ルーナ⁈」
困惑し、狼狽しそうになるのを抑えるのに精一杯だった俺は、いつの間にかルーナが目の前に来ていたのに驚いた。
「ど、どうしたんだ?」
「司様」
「あ、あぁ・・・」
「司様が魔族なら、司様の魔力で生かされているルーナも、魔族ですね」
「⁈」
「・・・」
「い、いや・・・」
「ふふ、お揃いですね?」
「っ⁈」
「司様ならきっと出来る筈です。ルーナは信じています」
「・・・」
「・・・」
「ふっ・・・、ああ、やってやるさ」
「ええ、・・・ふふ」
そうだな、俺が此の世界に存在する理由を今考えても答えは見つからないだろう。
今はミラーシへの扉の鍵を作る事に集中しよう。
そして、此の一致の理由には必ず辿り着いてみせる。
そう心の中で誓うのだった。
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