第128話
「随分と懐かしく感じるな」
「フォール将軍?」
「ふっ、もう私は将軍では無いさ」
「はぁ・・・、では、フォール様」
「ふっ、すまん。なら将軍で構わんよ」
「はい、フォール将軍」
俺達は野営場所に着き、準備を始めていたのだが、そんな中、フォールが辺りを見渡し、感慨深そうに呟くのに反応した。
(懐かしいって、・・・あっ、そう言われてみれば、此処でディシプル軍と戦ったのか)
「改めて真田殿」
「は、はい」
「この度は、我が軍兵士達への寛大な処置、感謝します」
「い、いえ、私は大した事は出来ませんでしたよ」
「そんな事は無い、本当に感謝の言葉しか無いです」
そう言って深く頭を下げ固まるフォール。
俺はその姿に彼の気の済むまで付き合う事にした。
やがて顔を上げたフォールに、俺は気になっていた事を聞いた。
「そう言えば、フォール将軍」
「ん?何かな?」
「はい、足は大丈夫なのですか?」
「ああ、その事か・・・」
フォールの足は先日、牢で見た時の義足のままで杖を使い歩いていた。
そんな俺の懸念にフォールは、腰のアイテムポーチから制御装置を取り出した。
「それは、直っていたのですか?」
「ああ、出発の際にサンクテュエール王より渡されたよ」
「そうですか」
「中々、曲者の様だからな」
「は、はぁ・・・」
フォールが少し離れた所にいるブラートの背を見ながら呟いた言葉に、俺は溜息の様な同意をしていた。
確かにあの男が何を思い、この任務に協力するのかは未だに分からなかった。
(まあ、今そんな事を考えても仕方ないかぁ・・・)
俺は答えの出ない疑問よりも、今は腹を満たす事にした。
アナスタシアの用意してくれた弁当は、冷える野営を助ける水炊きで鶏肉、水菜、白菜、ネギ、しめじなどの食材をカットしてくれていて、出汁を水筒に入れてくれており、〆にはちゃんぽん麺が用意されていた。
俺は鍋に出汁と入れ起こした火に掛け、鍋が温まってくるのを確認し、食材を投入していった。
「さてと・・・」
「司様」
「ああ、俺が行ってこよう」
未だ1人離れているブラート。
フォールはどの様に聞いているか分からないが、ルーナとフレーシュにはブラートとの過去の事件の事は話していた。
その為、俺がブラートを呼びに行こうとするとルーナは心配そうに見てきた。
今回の任務は彼から魔法を教えて貰う必要があるのだ。
許すつもりは無いが、最低限のコミュニケーションと礼節は必要だろう。
「ブラートさん、夕食の準備が出来ましたよ」
「・・・」
「え〜と、ブラートさん?」
「・・・此処は何故こんなにも汚染されているんだ」
「えっ?」
最初、俺の声掛けに背中を向け黙り込んでいたブラート。
未だ背を向け呟いた言葉は、かなり物騒な発言だった。
「汚染って・・・」
「此処で何があった。・・・俺がリアタフテの娘を攫った時には汚染など兆候も無かったが」
「何が?」
「余程大規模な魔法を使わなければ、此処まで汚染される事は無い」
「え、え〜と・・・」
俺はブラートに先日の争いと其処で俺の使用した魔法について説明した。
ブラートは俺を見据え静かに説明を聞いていたが、俺の説明が終わると呆れた様子で、地面に溜息を落とした。
自らの溜息に触れるかの様に膝をつき、掌で地面に触れた。
「・・・と言うのは本当に愚かな存在だな」
「えっ?」
「まあ良い」
「いや、良くないですよ」
「・・・」
ブラートが何を指し愚かと言ったかは聞こえなかったが、今はそれ所ではない。
俺の所為であろう汚染をそのままには出来なかった。
「・・・このレベルなら、その内汚染は晴れる。星を滅ぼす程ではない」
「因みに魔空間って、晴れてますか?」
「ああ」
「でも汚染が残っているとう言う事は、まだ魔物が此処を目指す可能性はあるのかぁ・・・」
「・・・はぁ」
「・・・あ、あのぉ?」
これ見よがしに吐かれた溜息に、俺は萎縮しながらもブラートに視線を向けた。
「・・・それは無いだろう」
「何故ですか?」
「・・・」
(答える気は無い訳ね・・・。仕方ない後でリールとアームの所に連絡しておこう)
「そう言えば、汚染を晴らすマジックアイテムとか無いんですか?」
汚染は魔法を使った結果として発生するという事は、魔法では晴らせ無いだろう。
ならばマジックアイテムはと思い聞いてみると、ブラートは意外な答えを教えてくれた。
「マジックアイテムではないが、方法はある」
「え?それって・・・」
「まあ良い。此の旅を進めて行けば、その過程で目にするだろう」
「???」
任務に関係あるという事か?
ただ、それ以上の答えを示す事は無く、ブラートは皆の囲む鍋の方に向かって行った。
1人取り残された俺は、此のままでいても仕方ないので、腹を満たす為に鍋へとブラートの後に続いた。
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