第129話
翌朝、早朝に一応屋敷に顔を出してからミラーシに向け出発した。
ミラーシはリアタフテ領と元フェーブル辺境伯領の丁度中間を、東に向かった先にある『リエース大森林』の奥へと進んだ先に隠されているとの事だ。
「リエース大森林って確か、どの国にも属していない筈だったよな」
「正確にはある国が管理しているのですが・・・」
「そうなのか?」
「ええ、分かりやすく説明するなら、ヴィエーラ教による管理と考えて貰えれば良いかと」
「へぇ・・・」
前に地理の授業で習った知識の確認のつもりでフレーシュに問いかけたが、返ってきた返答は微妙なものだった。
どうやら、此れから向かうリエース大森林はヴィエーラ教の管理地らしい。
「此の辺り一帯の国は教派の違いはあれど、皆ヴィエーラ教を国教としているからな」
「そう言えば、そうでしたね」
俺とフレーシュの会話にフォールは補足をしてきた。
サンクテュエール、アッテンテーター、ディシプルの3カ国は其々、ヴィエーラ教を国教としている為、此の辺り一帯にはヴィエーラ教の影響が大きかった。
「大森林って中が迷宮とかになって無いですよね?」
「・・・」
「ん、どうしたルーナ?」
「いえ、・・・ふふ」
「・・・」
そんなに子供じみた考えだっただろうか?
ルーナは俺から視線を逸らし、堪え切れない笑いをもらした。
少し落ち込みそうになった俺に、フォールからフォローが入った。
「うむ、迷宮と言う表現が正しいかは分からんが、踏み入った者は皆、幾万の歩を散々迷った挙句、いつの間にか大森林の外へと出ているらしいな」
「そうなのですか・・・」
フォールの発言を受けルーナに視線を向けると、彼女は既にいつもの涼しげな表情に戻っていた。
(まあ、良いのだけど・・・)
とにかく、リエース大森林はよく聞く迷いの森みたいな感じなのかな?
まあ、踏み入ったまま、森で迷い続けるよりは親切仕様と言えるだろうが・・・。
「・・・出ているのでは無い」
「え?どう言う事ですか?」
「追い出されているのだ・・・」
「え、え〜と?」
「・・・」
昨晩の汚染関連の会話以降、口を開く事の無かったブラートによる突然の発言。
リエース大森林の事で俺達の知らない情報を持っているのだろうが、再びその口を閉ざしてしまった。
(う〜ん、流石にもう少し協力してくれても良いと思うんだが・・・)
「それは狐の獣人達の魔術によるものかな?」
「っ⁈」
「・・・」
「教えて貰える情報なら、共有しておくに越した事は無いだろう」
「・・・ふぅ」
独特の世界観を持つ2人の間に流れる緊張感。
息を吐いたブラートは、意外にも緊張を緩める様に口を開いた。
「ああ、そうだ」
「それは、防ぎようはあるのかな?」
「通常の魔法と同じだ。一定時間と使用者を倒せば解ける」
「なるほど。詰まり防ぎようは無いと」
「そう言う事だな」
「ん?それだと、我々はミラーシにたどり着けないのではないですか?」
「・・・大森林は広大だ。連中とてその全てを監視出来ている訳ではない」
(詰まりは忍び込むって認識で良いんだろうな)
「なるほど。そうなると、ミラーシの方々の機嫌を損ねない様にする必要がありますね」
「そうなるだろう」
「好きにすれば良いさ」
「・・・」
とにかく先ずはミラーシに潜入し、其処で親書を渡す。
その過程で狐の獣人達の機嫌を損ねず、警戒を強めない様にするか・・・。
最初に任務を受けた時から考えると、かなり難易度が高い様に感じるが仕方ないのだろう。
そんな仕方ない事を考えていると、視界の先に大森林が見えてきたのだった。
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