第124話


 王都からリアタフテ領迄の道中、馬車の中は轍の音のみが響き、重苦しい沈黙に包まれていた。

 そもそもルーナとフレーシュは社交的な性格では無いし、俺とブラート・フォールとの関係は生命の危機に晒された事もあり、和やかな空気を望むのは難しかった。


(沈黙は全然大丈夫なんだが、此の重苦しさはなぁ・・・)


 そうは思っても、自身で此れを解消する能力は無い為、俺は諦めて考える人のポーズで固まっていた。

 馬車の旅は王都へ向かう時と同じく3日続き、俺達はリアタフテ領へと帰還した。


「さてと・・・」

「司様」

「ああ、ルーナ。良いぞ」

「・・・」

「・・・」


 フォールとブラートをどうするか、考えていた俺へとルーナから声が掛かり、その内容を確認せずに了承した。


(まあ、聞くまでも無くフェルトの所に顔を出したいのだろう)


 俺は馬車を学院に近づかせる訳にもいかないので、途中でルーナと別れ、自身はリールへの報告と2人の滞在許可を取りに屋敷へと向かった。


「お帰りなさいませ、司様」

「ただいま、アナスタシア」

「?馬車を移動させましょうか?」

「いや、ちょっと待ってくれ」

「はあ・・・」


 屋敷に馬車が着くとアナスタシアが出迎えてくれた。

 ただ本来の停車場所では無く、入り口に止めてしまった為不審に思ったらしい、その顔には怪訝さが浮かんでいる。


(流石に説明無しにブラートとアナスタシアを顔合わせさせる訳にはいかないな)


 俺は取り敢えず馬車をフレーシュに預け、アナスタシアを伴いリールに会いに執務室へと向かった。

 途中でローズと会ったが、国王から任務を受けその事でリールに会いに行くと伝えると同席を辞した。

 執務室に着くとリールは、紛争の後処理の仕事で書類を作成している最中だった。


「あらぁ、おかえりなさい司君〜」

「はい、ただ今戻りました」

「ご苦労様ぁ、アナスタシア〜、今日はご馳走ねぇ」

「はぁ・・・」

「?どうしたのぉ?」

「すいませんリール様、実は今回王都で陛下より任務を仰せつかりまして」

「あらぁ・・・」


 俺は帰還の挨拶もそこそこに本題である、任務の話に移る事にした。

 フォールの名が出た事には2人共、特別反応は無かったが、ブラートの名が出た瞬間アナスタシアは緊張感を増した。


「アナスタシア」

「すいません・・・」

「ふふふ、でも困ったわぁ、流石にお客様として迎い入れるのもねぇ」

「やはりそうですね。出来れば領内で野営させて頂きたいのですけど」

「それはもちろんよぉ、でもぉ、司君もぉ?」

「はい、両名とも罪人にである以上は、今回の任務を任された自分が目を離す訳にはいきませんので」


 当然の事だな、自身の命じられた任務だ、フレーシュだけに任せる訳にもいかなだろう。


「そうよねぇ、でもぉ、せっかく帰って来たのにぃ、ローズちゃんが残念がるわねぇ」

「ええ、でも陛下より直々に受けた任務ですので・・・」

「そうねぇ、仕方ないわねぇ」

「はい、なるべく早く任務を終える為、直ぐにでも出発します」

「あらあらぁ、そおなのぉ」

「でしたら司様、今晩の夕食の弁当を準備しますので、少しだけ待って頂けますか?」

「ああ、ありがとうアナスタシア。助かるよ」

「では、直ぐに準備します」


 そう言ってアナスタシアは足早に炊事場へと向かった。


「先ずはどうするのぉ?」

「はい、パランペールさんの所に狐の獣人の情報を仕入れに行き、その近くで野営をしようと思います」

「九尾の銀弧さんねぇ・・・」

「リール様は、何かご存知ですか?」

「いいえ〜、ごめんなさいねぇ。私もぉ、狐の獣人さんに会った事は無いのぉ」

「そうですか・・・」


 リールも昔冒険者だったらしいのにお目にかかった事が無いって事は、狐の獣人ってのはかなり珍しい存在なのだろうな。

 俺はその後、リールにケンイチからの手紙を渡し、ローズの部屋に向かった。

 ローズは任務の為に暫く屋敷に帰らない事を伝えると、短く分かったわと応えた。

 妊娠中に不安を与えるかと思い、俺はフォールとブラートの事をどう伝えるか頭を悩ましたのだが、ローズはそもそも任務の内容については全く聞いてこずに、王都でお父様は元気でしていたかとか、エヴェック様に式の依頼はしてくれたかとかそんな話しかしてこなかった。

 そうしてローズと話しているとアンが部屋にやって来たので、王都で買って来たお土産の生八ツ橋を渡した。


「にゃっ、これを待ってたにゃ」

「・・・」

「あむあむ、ん〜、うまいにゃっ」

「・・・」

「はにゃ〜、もぐもぐ・・・」

「・・・」


 まあ、良しとするか・・・。

 そうして、アナスタシアから弁当を受け取り、パランペールに会う為に街へと出発するのだった。

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