第125話


 リアタフテ家の屋敷を後にし、シャリテ商会へとやって来た俺達。

 フレーシュ、フォール、、ブラートは馬車で待ち、その周りは一応衛兵が見張っていた。


(まあ、全くの無意味だと思うが、フォールもブラートも目立つ容姿だから街を出歩くのはなぁ・・・)


 そんな訳で俺はシャリテ商会に来たのだが、実は同行者がいた。

 その同行者は・・・。


「お久しぶりです。パランペールさん」

「ああ、本当久しぶりだね。そう言えばローズの懐妊おめでとう」

「ありがとうございます」

「今日は1人かい?」

「・・・」

「どうかしたの?」

「いえ、アンも一緒だったのですが・・・」

「ああ、なるほど。すまないねぇ」


 そう、俺の同行者はアンだったのだが、彼女は玄関を入った途端にお茶の準備をしてくると行ってしまった。


(まあ、つまみ食いだろうけど・・・)


「いえ、それでパランペールさん。何日かアンを此方に泊めて頂きたいのですが?」

「えっ⁈どうかしたのかい?」


 俺の言葉にかなり驚いた様子で、机から少し身を乗り出して聞き返してきたパランペール。

 俺が今回の任務の件で屋敷を開ける為、数日の冬休みを与えた事を伝えると安心した様に息を吐いた。


「?」

「はは、ごめんよ司君。遂にアンが、お暇を出される程の問題を起こしたのかと思って」

「ああ、いえ、そんな事無いですよ。アンは頑張ってくれてますよ」

「そうかい?なら良かったよ」


 実際、最近はローズの妊娠もあってアナスタシアが忙しいので、アンは屋敷で家事に奮闘してくれていた。

 今回もリールの提案で、リールの出産時に屋敷で働いていて、ローズの乳母でもあった女性がアルバイトに来たタイミングで、疲労の溜まっているであろうアンに、俺の不在に合わせて休みを与える事にしたのだった。


「だけど、遂に陛下直々の依頼とは、司君も出世したねぇ」

「はぁ・・・」

「はは、まあ光栄な事だし、嫌そうな顔をする事は無いよ」

「はい・・・。それでパランペールさん、狐の獣人の事なんですけど?」

「ああ、そうだね。先ず九尾の銀弧の事から話そうか」

「お願いします」


 昔、ある王国での話。

 国王には2人の男子が居た。

 長男はお世辞にも凡庸に達しているとは言えない能力に、愚鈍にして粗暴な然し、王位継承第1位の王子。

 次男は溢れんばかりの卓越した才覚に、会う者を皆惹きつける魅力に人徳の、王位継承第2位の王子。

 当時、その王国では前王の指名により、次代の王を決めていたのだが、急病により王が急逝すると、遺言により次男が次期国王に指名された。

 然し、それを良しとしない長男と従った軍の大半と一部貴族達は、速やかに反乱の準備を進め撃って出た。

 俺が次男は其れを抑えられなかったのか問うと、パランペールは長男側に付いた者達の、実に人間味溢れる理由を説明してくれた。

 軍は次男が王に即位すると、他国への侵攻の可能性が大幅に下がり、戦争で己が欲を満たすチャンスが減る事に反発し、また、貴族達は愚鈍な長男が王に即位した方が、自身の利益を上げる事が出来ると、かなり有力だが野心の高い者達が長男側に付いた為、当初、次男側はかなりの劣勢に追い込まれた。

 戦況は次男側の劣勢。

 此処で次男は策に打って出た。

 その策とは、当時はまだ人族の奴隷では無かったが、決して対等の権利を有して無かった獣人達に、自らの王国で対等の権利を与える法の整備だった。

 当初は次男に従う者達や、多くの国民達から反発も有ったが、此のままでは敗北し、粗暴な長男が勝利する事は貴族達は爵位の剥奪を、国民達は重い税の搾取に苦しめられ、即ち其れは自らの終わりを意味する為、結局は受け入れる事にした。


「其の獣人達の中に居た1人が、九尾の銀弧なのさ」

「なるほど、やはり強かったんですか?」

「強いなんてものじゃ無いよ。手にした槍による槍術は幾百・幾千の刃を払い退け、其の魔法は海を割き、大地を穿ち、天からは雷を降らせ、仇なす者全てを焼き尽くしたと言われているよ」

「・・・へぇ」


 其れはまた類い稀な強さだったんだな、九尾の銀弧って奴は。


「其れでは、闘いは次男が勝ったのですね」

「・・・いや、此れが違うんだよ」

「え?」

「此処で出てくるのが、契約魔法のルーツとなる魔法なんだ」

「・・・」


 契約魔法のルーツ。

 パランペールは何処か沈痛な面持ちで、そう口にするのだった。

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