第119話


 軍の稽古場での訓練を始めて3日後の夜、国王からの呼び出しを受けた。

 明くる朝、俺はルーナとフレーシュを伴い城へ向かい、初めて来た時と同じ部屋に通され、国王とケンイチの2人と合流した俺達は挨拶もそこそこに、国王の先導で城を出て、馬車に乗り移動を開始した。


「どうだ、王都は楽しめておるか?」

「ははあ〜、やはり栄えていて色々な店も有りますので」

「ふふ、軍の稽古場での訓練の話は聞いておるぞ」

「ははあ〜」

「魔法の内容を聞いた感じでは狐の獣人対策か?」

「は、ははあ〜」

「ふむ・・・、確かに彼の者達の事は不明な点も多い」

「・・・」

「荒事にならんとは限らぬしな」

「ははあ〜」


 国王が感心した様子だったのに、俺は安心した。


(自らの準備した親書を信用して無いのかと取られなくて良かったな)


「だが、狐の獣人の情報は必要であろう」

「ははあ〜」

「陛下、よろしいでしょうか?」

「うむ、ケンイチよ。申せ」

「はっ。我が友人に1人、獣人に精通している者が居りまして」

「ほお、其れは?」

「リアタフテ領シャリテ商会のパランペール=シャリテです」

「・・・⁈」

「ほお、そうであったな。彼の者は確かお主やリールと共に冒険の旅をしていたのお」

「はっ、此れから真田司の向かうミラーシは、リアタフテ領の付近を通る事になりますし、1度情報を仕入れさせればと?」

「え?」

「おお、そうだったな。すまんな、司よ。聞いての通りミラーシはリアタフテ領より、そう距離は無い様なのだ」

「そうなのですか?」

「うむ。とは言っても私も正確な場所迄は知らぬし、可能なら今回の任務、リアタフテ家の屋敷を活動の拠点とするが良い」

「ははあ〜」


 パランペールの事は完全に俺も失念していたが、狐の獣人の集落がリアタフテ領の近くに有るとはな。

 だが、ローズの事も考えると良い事なのかなと思うのだった。


「着いた様だな、付いてまいれ」

「ははあ〜」


 馬車が停車し国王に続き降りると、其処には堅牢そうな建物が建っていて、其の周囲を多数の監視を行う衛兵が点在する場所だった。


「此処は・・・」

「うむ、司は初めてだったな」

「ははあ〜」

「此処は王都の監獄だ」

「っ、は、ははあ〜」

「ふふ、付いてまいれ」


 5名の衛兵を同行者に加え、俺達は監獄の中へ入って行った。

 建物の中は当然ながら、装飾の様な物は一切無く、然し掃除は行き届いており、此の国の囚人への扱いが、ルールに則ったものである事を理解させた。


「司よ」

「ははあ〜」

「私は今回の任務、決して容易なものだとは考えておらぬ」

「ははあ〜」

「其の様な任務をお主の様な、この先数十年に渡り我が国を支えるであろう、未だ蕾の才に命じる事は心憂い」

「ははあ〜、有難きお言葉です」

「うむ。其処でお主の任務を、ある男に手伝って貰おうと思っている」

「ははあ〜」

「着いたぞ。開けよ」

「「はっ」」


 国王の指示に共に来た衛兵2人が、堅牢そうな扉に掛けられた鍵を開けて、扉を開いた。

 開かれた扉の先。

 其処には鉄格子に囲まれた小さな牢があり、其の中には1人の男が優れた芸術家の手による彫刻像の様に、音も無く鎮座していた。


「・・・っ」

「紹介する必要は無かろう?」

「・・・」

「・・・此れは、存外珍しい客人だな」

「フ、フォール将軍・・・」


 国王に連れられた先。

 其処に居たのは、大陸最強の剣士フォール其の人だった。

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