第120話


「フォール将軍・・・」

「真田殿、久しいな」

「は、はい・・・」


 牢屋の中、椅子に鎮座するフォールの左足は、以前迄の制御装置は付いておらず、代わりに簡易義足の様な物があり、近くの壁には杖が立て掛けてあった。


「ふっ、慣れると快適なものだよ」

「あ、はぁ・・・」

「ふっ・・・」


 俺の視線に気づいたのだろう、そんな風に言ってきたフォールに気の抜けた返事しか出来なかった。


「で・・・」

「は、はぁ・・・」

「貴殿に問うより、御仁に問うべきか」

「っ・・・」

「ふふ、フォール殿、居心地は如何かな?」

「膝を伸ばして寝る空間があるだけで充分ですよ」

「ふむ、欲が少ないな。貴公が我が国に仕えてくれるなら、広大な領土を与えても良いのだが」

「・・・不要ですな。何より我が主君は唯1人のみ、無駄な話ですよ」

「そうか、残念だな」


 残念、そう返しながらも如何という事も無いという態度で、国王は続けた。


「まあ、良い。今日は貴公に依頼したい事があってな」

「・・・」

「今回、此処の真田司が我が命により、ある秘境に届け物をする事になった」

「・・・」

「その旅に貴公の同行を願いたいのだが?」

「・・・」


 国王の話を目を閉じ、ジッと聞いていたフォールはやがて国王を見据え応えた。


「断る。先程答えた様に我が主君は唯1人のみだ」

「ふむ、まあそう言うとは思っていたが」

「・・・交渉は終わりだな」


 対話を打ち切る様に再び瞳を閉じようとしたフォールに、国王は然しまだ諦めた様子は無かった。


「この度の紛争が終結してより、ディシプルには幾度と無く交渉の人間を送っている」

「・・・」

「だが、中々良い返答を得られなくてな」

「・・・」

「彼の国の状況を考えても、決して法外な賠償金は求めていないのだが、これでは貴公も含め後十数名となった捕虜の解放も出来ず、我々も困っているのだよ」

「・・・」

「やはり、前王が亡くなられた事が交渉を難航させていてな」

「・・・」

「・・・っ」


 国王より発せられた言葉に、身に纏う空気を刃に変えたフォールに俺は気圧された。


「ふむ、で、相談なのだが、今回の件引き受けてくれるなら、成功の暁には貴公を含め残りの捕虜の解放を約束しよう」

「今、ディシプルは?」

「前王の息子殿が新たに王となった様だ」

「・・・」

「まあ、まだ日はあるし考えを纏めておいてくれ」

「日時は?」

「ん、皆の準備もあるだろう。数日は大丈夫だよ」

「・・・了解した」

「うむ、では行くか?」

「は、ははあ〜」


 其の場を立ち去る国王の後ろを、来た時と同じ様に付いて俺達は移動を開始した。


「司よ?」

「ははあ〜」

「意外であったか?」

「は・・・、ははあ〜」

「ふむ、お主の力を信じておらぬ訳ではないぞ」

「ははあ〜」

「だが、お主達の身の安全を考えるとな・・・」


 来た時とは違う道、先程よりもより地下へと階段を下りて行く俺達一行。

 地下何階程だろう?

 数える事も忘れる程深く迄来て、其処には堅牢な扉があり、今度は鍵ではなく制御装置が取り付けられていた。


「此の制御装置は私しか操作出来んのだよ」

「そうなのですか?」

「うむ、中には今回お主達をミラーシへと案内する者が、投獄されておる」

「・・・」

「ふふ、そう恐れるな。その為のフォール殿だ」

「は、ははあ〜」

「ふむ、此れで良しと。行くぞ」

「ははあ〜」


 国王しか使用出来無い程、厳重な場所に投獄される人物。

 そんな危険な人物と旅をさせられるのか・・・。

 その護衛のフォールと言われても、俺は少し肝が冷えるのを感じた。

 堅牢な扉が開かれた先。

 フォールの投獄されてた場所よりも薄暗く、狭い空間に二重の鉄格子に囲まれた牢があった。


「・・・な、な⁈」

「・・・」

「すまんな、司。此の男が唯一其処に至れる者なのだ」

「・・・」


 牢の中、此の状況にも表情一つ変えず座っている男。

 決して忘れる事は無いだろう、黒き肌に灰色の髪を持つ男。


「ブラート・・・」

「・・・」


 此れ迄其の名を口にする事はほとんど無かったが、其れは不思議な程、自然に発する事が出来た。

 俺達の案内人になるという男は、九尾の銀弧と同じく1億の首を持つダークエルフだった。

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