第118話
「あれぇ、若頭じゃないっすか」
「久しぶりですね、バドーさん」
「やめて下さい若頭、呼びつけでお願いします」
「ははは」
「・・・」
俺は取り敢えず笑って誤魔化しておいた。
「それで若頭、今日はどうされたんですか?」
「ええ、王都に来て鍛錬を怠っていたので身体が鈍ってしまいまして、出来れば軍の稽古場を使用させて頂きたいのですが」
「そうでしたか、でしたら頭に確認してきます」
「え?ち、ちょっと・・・」
「駆けて行かれましたね」
「そ、そうだなぁ・・・」
「あの風貌は確かケンイチ将軍直属の方では?」
「ああ、フレーシュも知っているんだな」
「そうですね、目立ちますから」
「だよなぁ〜」
やはりあの昭和のヤンキースタイルは、此方の世界の人間には異様に映るらしい。
ただフレーシュの反応からは嫌悪感を感じてる風では無いが・・・。
(ただなぁ〜、居たのかケンイチ・・・)
あの果たし合いの夜、両者ノックアウトで決着した為、俺はまだ彼との関係改善を行えて無かった。
どんなに無茶苦茶な人物であっても、義理の父親になる以上は最低限の関係構築は必要だろう。
でも出来れば準備をした上で、それに臨みたかったのだがなぁ・・・。
ただ準備する間も無くバドーはケンイチと共に戻って来た。
「おはようございます、ケンイチ様」
「「おはようございます」」
「・・・おう」
俺だけならどうだったか分からないが、ルーナとフレーシュも続いた為、ケンイチは短く応えてきた。
「今日は稽古場の使用を許可して頂きたく、参上したのですが?」
「・・・」
「え、え〜と・・・」
「お前は軍の人間では無い」
「は、はい、やっぱり無理ですよね。すいません、お時間を取らせました」
ケンイチの発言を返答と受け取った俺が、そそくさと退散しようとすると、背中から声が掛かった。
「待て」
「は、はい?」
「お前は軍の人間では無い・・・」
「はい、その通りです」
(それはさっき聞いたのだが・・・)
「だが、現在陛下より此のサンクテュエールにとって重要な任務を拝命している」
「はい・・・」
「軍とは陛下の為、延いては国の為に日々来るべき戦いを想定し訓練に取り組んでいる」
「・・・」
「ならばお前も国の為、日々の鍛錬を怠るな」
「は、はい」
「・・・バドー、案内してやれ」
「へいっ‼︎」
「あ、ありがとうございます」
「・・・」
ケンイチは俺からの礼には反応せず、背中を向けたまま屋外稽古場に戻って行った。
「ささ、此方っす」
「はい」
そうして俺達はバドーの案内で、魔導訓練所へと向かった。
魔導訓練所では数十人の魔導士が訓練を行っていて、見知った顔もあった。
「ほお、真田殿ではないか」
「これはグリモワール様、おはようございます」
「うむ、今日はどうしたのじゃ?」
「ええ、王都に来て鍛錬を怠っていたので、今日は軍の稽古場を借りに来たのです」
「そうか感心じゃの。じゃが、王都観光は良いのか?」
「はい、それはもう十分」
「そうかそうか」
蓄えられた顎鬚を撫でながらグリモワールは、愉快そうにしていた。
「そう言えばグリモワール様」
「うむ、どうかしたのか?」
「今、訓練中の方々は宮廷魔導士の人達なのですか?」
「皆と言う訳では無いが、一部には居るぞ」
「そうですか、でしたら少しお願いしたい事が有るのですが」
「うむ、申してみよ」
「はい・・・」
俺は今回の任務に向けて、昔、大魔導辞典に記していた魔法の実験を行いたいと思っていたのだが、其れは攻撃魔法を使える人間が必要だった。
なのでリアタフテ領に帰るまで出来無いと思っていたのだが、宮廷魔導士に協力して貰えるならこれ以上の状況は無いと早速準備に取り掛かった。
「司様、此れは此処で良いですか?」
「ああ、ありがとうルーナ」
「いえ・・・、それで今回はどんな魔法なのですか?」
「う〜ん、まあ見れば分かるよ」
「・・・そうですか」
「真田殿、此方は準備出来たぞ」
「分かりました、では打ち合わせ通りにお願いします」
「うむ」
グリモワールの返事に俺はルーナの設置してくれた、2本の的の間に立った。
対峙するのはグリモワールの指示を受けた2人の宮廷魔導士達。
「良いか、真田殿?」
「はい、お願いしますっ」
俺が返事をすると同時に混沌を創造せし金色の魔眼を開くと、宮廷魔導士達は詠唱を始めた。
一方の魔導士が無詠唱で魔法陣を形成し、もう一方が短縮詠唱を行った。
無詠唱の魔法陣から的に向け球状の火炎の塊が発射され・・・、刹那。
「『
俺が詠唱を行うと同時に、自身の足下に魔法陣が形成され其処から、全ての色を黒く染め上げてしまいそうな、漆黒の霧が這い出て来た。
其の上を火炎の塊が的に向かい通過しようとすると、漆黒の霧は塊に伸びて飲み込み、火炎の塊は闇の中へと葬り去られた。
「え?」
「っ⁈」
「な、なんじゃ、あれは・・・」
ルーナとフレーシュ、グリモワールはかなり驚いている様だ。
そんな中、短縮詠唱の魔法陣形成が完成され、其処から岩石の刃が射出された。
今度は先程と違い固体の魔法だったが、同じ様に漆黒の霧の上を通過しようとすると、再び霧に飲み込まれ闇へと沈んでいった。
「・・・ふぅ〜、成功か」
「「「・・・」」」
軽めの動悸を感じ頰に汗が伝う俺を見て、その場に居た全員が言葉を失っているのだった。
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