第117話


「さてと此の魔石、アイテムポーチに入るかな?」


 俺はアンジュを抱えたまま、ドラゴンが消し炭になった其処に残った魔石へと近づいた。

 眩い輝きを放つ其れは、今俺の抱えているアンジュ程の大きさで、持ち上げるのも一苦労だろう。


(持てない位大きな物の入れ方はローズに教わったのだが・・・)


 安物のアイテムポーチとは違い、俺やローズの使う物は容量は勿論、一定以上のサイズの物も其れに手を当て、アイテムポーチにも手を添える事で収納する事が出来た。

 ただ最近では色々な物を見境なく、アイテムポーチに収める癖が付いてしまった為、容量の心配があった。


(ローズに唯一と言っていい程叱られる事だからなぁ・・・)


 ローズは俺の生活態度に一切否定的な発言はしなかったが、アイテムポーチの整理だけは偶に行う様注意を受けた。

 俺は魔石に手を置き、自身の腰のアイテムポーチのボタンを外し手を添えた。

 眩い輝きを放つ魔石を囲む様に、淡い光が包み魔石は霧散していきアイテムポーチへ移動した。


「ふぅ〜、入ったみたいだな・・・」

「・・・んっ」

「おお、気が付いたか?」

「ん?え、司・・・、此処は?」

「ああ、まだダンジョンの中だぞ」

「えっ、彼奴は⁈」

「もう仕留めたぞ」

「え・・・?」


 アンジュは意識を取り戻したが、俺からの返答に再びその身は固まってしまった。


「おいっ、アンジュ、おいっ」

「え、ええ・・・」

「とりあえず固まるのはダンジョンを出てからにしてくれ。此のままじゃ空気が危ない」

「え?そ、そうね・・・」


 俺は主であるドラゴンが倒れた後も、未だダンジョンの中、足下に広がる炎に早めの退散を希望するのだった。

 そして・・・。


「お、お嬢様っ」

「え⁈・・・うわぁ、ヤバッ」

「アンジュよお主という娘はぁ・・・。む、これは真田殿」

「エヴェック様?」


 俺達がダンジョンより出ると其処には、先程王都で俺が伸ばした男達と、朝の内に別れたばかりのエヴェックがいた。


「え⁈司、お祖父様と知り合いだったの?」

「お祖父様?」

「ええ、私のお祖父様よ」

「・・・」


 なるほど、エヴェックの問題の孫娘がアンジュだった訳か・・・。

 俺は一瞬で全てが理解出来、アンジュを見据えた。


「・・・」

「な、何よっ」

「エヴェック様、説明が必要でしたら行いますが、今は取り敢えずアンジュをお返しします」

「うむ・・・」

「え⁈ちょっとどう言う事?」

「そうですな、ご迷惑をお掛けしました」

「いえ、では私は此れで・・・」

「真田殿、王都までお送りしますぞ」

「いえ、アンジュとの話もあるでしょう?」

「これは、お心遣い感謝致します」

「では」

「ち、ちょっと司、何そそくさと退散してるのよっ」

「じゃあな、アンジュ。あんまり学院をサボってエヴェック様に迷惑掛けるんじゃないぞっ」

「え⁈何で・・・」


 俺は素性を理解したのか、此方に一礼をする男達に軽く会釈のみをし、その場を離れるのだった。


 そして翌日、身体を鈍らせたくなかった俺がルーナを連れ、軍の稽古場へと向かおうとしているとフレーシュがやって来た。


「おはようございます、真田様」

「え、ああ、おはようフレーシュ」

「お出掛けですか?」

「ああ、軍の稽古場に行く所なんだ。何か用か?」

「いえ、旦那様より今回の狐の獣人への使者の件を聞きまして」

「そうだったな。でも、まだ陛下から呼び出しが無いんだ」

「ええ、分かっています」


 なら何故と確認しようとした俺に彼女は、仕事を終える迄は俺と共に行動する様指示があったと簡潔に伝えてきた。


「ん?でもミニョンは?」

「必要ありません」

「・・・」

「はぁ、屋敷には他に使用人も居ますし、お嬢様は今日は忙しいのですよ」

「そ、そうかぁ・・・」


 忙しいのなら尚更、フレーシュが居た方が良いのではと思ったが取りつく島を感じられず、仕方なく移動を開始した。


「・・・お嬢様は」

「え?」

「・・・はぁ」

「・・・」

「お嬢様は今日はお見合いなのですよ」

「・・・」

「・・・」

「そうか・・・」


 その後俺達は無言のまま軍の稽古場へと向かうのだった。

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