第111話


 ミニョンと別れた後、俺はグリモワールとの約束を果たすため城へと向かった。

 城に着き入り口の衛兵にグリモワールに会いに来た事を伝えると、通されたのは宮廷魔導団の執務室だった。

 通された先、ソファーに座りグリモワールが来るのを待っていると、そう時間を置かずにやって来た。


「おお、良く来てくれたの。こんなに早く来てくれるとは思わんかったぞ」

「いえ、何時迄王都に居れるか分からないので」

「そうか、陛下から連絡は無いじゃろ?」

「ええ、心当たりがあるのですか?」

「ふむ、外交の新書の作製は陛下が認めたものを、外交官の書記担当が清書し、再び陛下に戻してチェックし完成となるのじゃ」

「陛下が1人で作製するのでは無いのですか?」

「うむ、我がサンクテュエールでは説明した様な形式じゃ」


 そうだったのか、それだとかなり時間が掛かるんじゃ無いのか?

 ローズも別に直ぐ出産と言う訳では無いけど、なるべく早く帰ってやりたいのだが・・・。

 かと言って国王からの命を無視して帰る訳にもいかないから待つしか無いか。

 俺はとりあえずグリモワールの用件を済ませる事にした。


「それで、私は何を手伝えば良いのでしょうか?」

「うむ、身体データを取らせて貰いたいのじゃ」

「身体データですか?」

「そうじゃ」


 グリモワールからの意外な申し出に、俺はそのまま聞き返してしまった。

 グリモワール曰く、今サンクテュエールでは優秀な魔導士の身体データを取り研究し、魔導士育成に役立てているらしい。


(此の中世の様な世界観に、意外な程現代的な方法を採るんだな)


 俺は今回のデータの件や、制御装置による生活レベルに不思議な感覚を抱いた。


(まあ、人間の欲求はいつの世も変わらないって事だろうな・・・)


 そんな風に自身を納得させるのだった。

 そうしてグリモワールに連れられ、城から出て直ぐの魔導研究所に向かい身体測定や採血、装置を身体に繋ぎ反応をチェックしたり、口頭による聴き取りや、実際に魔法を使用したり、昼食休憩も挟み夕方まで行われた。


「今日はご苦労だったの」

「いえ、貴重な経験でした」

「うむ、ところでお主宮廷魔導士に興味は無いか?」

「宮廷魔導士ですか・・・」

「そうじゃ、お主程の才覚が有れば、いずれは大陸で頂点に立つ魔導師になれるじゃろう。儂もお主になら将来宮廷魔導士の長を任せられると思うのじゃ」

「いえ、私などでは・・・」


 急な話だと思った。

 昨日会ったばかりの俺に宮廷魔導士の長をとは・・・。

 グリモワールの真意が理解出来無い俺に、彼はデリジャンの兄とは思えない発言をしてきた。


「謙遜など要らんぞ。魔導士、いや騎士もじゃが実力が全てじゃ」

「はあ、そうなのですか?」

「ふむ、儂も弟の道徳や人格の教育は信じておるし、国王や王国への忠誠は勿論必要じゃ」

「・・・」

「だが、力無き者が力有る者を人徳やカリスマ性のみで従えるなど結局は幻想に過ぎん」

「・・・」

「ある一定の才覚を持つ者はやはり自身以上の才覚にのみしか従わんのじゃよ」

「・・・」


 正直俺には理解の出来無い考え方だったが、そう言う考えも有るのかとだけ思うのだった。

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