第106話
俺達の前に現れた、ケンイチ、デュック、グリモワールの3人。
廊下を歩く衛兵や使用人が壁際まで下がり、一礼して通り過ぎる所に、如何に3人が此のサンクテュエールで大物かが理解出来た。
「ミニョン、フレーシュはどうしたんだい?」
「むぅ〜、あの娘が休暇なのはお父様もご存知の筈ですわ」
「ああ、だが陛下からの呼び出しなのだから、馳せ参じるのが当然だろう」
「そんな事はあの娘に直接仰れば良いのですわっ」
「あっ、う、うむ・・・」
ミニョンの父、デュックの用件はフレーシュの事についてだったのだろうか?
だがミニョンのけんもほろろな対応に彼は言葉に詰まってしまった。
「ま、まぁ、それは後程として・・・。真田司君だったね」
「むぅ〜、ですわ」
「は、ははあ〜」
「いや、良いんだ。楽にしてくれるかな?」
「は、はい・・・」
「今回の働き、本当に素晴らしいものだった。サンクテュエール全貴族を代表してお礼を言うよ。本当にありがとう」
「当然ですわっ」
俺が返事をする前に胸を張って応えてしまったミニョンに、一瞬言葉を飲み込んでしまったが、頭を下げ続けるデュックに其のままでいる訳にもいかず応えた。
「いえ、婚約者の領地であり、また王国の危機なのですから当然です。それに多くの人の助けが有っての戦果ですので、私如き若輩者何処まで助けになれたか・・・」
「そんな事は無いさ。あのフォール将軍を倒した実力、今や国内では並び立てるのはケンイチ殿位だろう」
「当然ですわっ」
「・・・」
「い、いえ・・・」
デュックから出た名に、その背後に控えるケンイチと一瞬目が合い、俺は直ぐに否定をした。
「ふふ、娘はリアタフテ領に居る時から君の事を手紙で送ってくれたのだが、特に昨晩はフォール将軍との決闘の武勇伝をずっと聞かされていたよ」
「は、ははは・・・」
「当然ですわっ」
いや、当然じゃないっ。
寧ろ何をしてくれているのだと言う話だろう。
ミニョンとはあの夜以来、そんな関係では無かったが、あの事実が消える訳では無いのだ。
それを考えるとあまり俺と親しげな関係でいるのは、彼女の将来を考えても良くない事ではないのだろうか?
デュックから告げられた、初耳の話に俺は乾いた笑いで応えるしかなかった。
「それで少し頼みが有るのだけど、良いだろうか?」
「はぁ、私にですか?」
「ああ、少し付き合って貰いたいのだけれど」
「は、はぁ、分かりました」
「お父様、私もご一緒して宜しいですか?」
「いや、司君と2人で話したいんだ」
「そうですの・・・、残念ですわ」
俺は胸が縛られる様に締め付けられ、言い様の無い不安が増した。
(まさかミニョンとの事がバレて・・・)
ミニョンに同席を断るデュックに、俺は言い様の無い不安を感じた。
「良いかな、ケンイチ殿?」
「ああ、構わない」
「君も何か用が有ったのではないかい?」
「まあな・・・」
ケンイチはデュックの質問に視線を合わせて答えながらも、其の身に纏う空気は俺へと伸ばし、此の身を捕らえていた。
「・・・」
「おい」
「は、はいっ、何でしょうか?」
「手紙・・・」
「は、て、・・・がみ?」
「バドーに渡した手紙は読んだか?」
「は、はいっ」
(嘘だっ、実はあれ以来ずっとアイテムポーチに封印したままだ)
俺はケンイチから発せられる空気に、身動ぎ一つ出来ずにいる自身の状況に、未だ読んでいない事実を伝える事が出来なかった。
「・・・そうか、なら良い」
「・・・」
「じゃあな、待ってるぞ」
「・・・、はい」
俺は背を向け其の場を去るケンイチに、何とか返事を絞り出した。
「グリモワール殿は?」
「うむ、儂も王都に居る間に手伝って欲しい事が有るのじゃが、良いか?」
「はい、分かりました」
「うむ、時間が出来たら城に来てくれ」
グリモワールがそう言って去って行くと、デュックは俺を促した。
ルーナはミニョンが送ってくれるらしい。
(さて、鬼が出るか蛇が出るか・・・)
俺は覚悟を決めてデュックに続いた。
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