第101話


「王都への呼び出しですか?」

「そうなのよぉ、国王様から伝令が届いたのよぉ」

「私にですか?」

「そうよぉ、国王様がぁ、今回の紛争を収めた功績をぉ、評価して下さってるそうなのぉ」

「司、おめでとう」

「あ、ああ・・・」


 夕食の席でリールより告げられた、国王からの王都への呼び出し。

 既にあの争いから一月が経っているのに、今更俺を呼び出してどうするつもりなんだろう?


(ただ、断るのは流石に無理だよなぁ)


 何か面倒な雰囲気を感じて、何とか避けたかったのだが、国王相手となると当然そんな事を言い出せる筈も無かった。


「ふふふ、司君嫌そうな顔をしては駄目よぉ」

「は、はい」

「国王様にはぁ、今回のディシプル軍の方達のぉ、処分についてぇ、司君の申し入れをぉ、留意して頂いたのだからぁ」

「そうだったのですか・・・」


 フォールとの決闘後に彼から頼まれていた、ディシプル軍の兵士達の処分について、俺はリールにお願いをしていたのだが、どうやらリールは国王に其れを伝え今回の兵士達の解放となった様だ。

 そうとなれば、尚更断る訳にはいかないだろう。


「いつ頃、お伺いすれば良いのでしょうか?」

「手紙にはぁ、到着次第準備をしてぇ、出発する様にとあったわぁ」

「それだと明日準備をして、明後日出発で大丈夫ですかね?」

「そうねぇ、それで大丈夫よぉ」

「分かりました。ローズ、留守にするがすまない」

「何言ってるのよ、司。こんな誉れ高い事は無いわよ。しっかり勤め上げて来てね」

「ああ、分かったよ」

「そう言えばぁ・・・」

「何でしょうか?」

「エヴェック様へのぉ、手紙を認めたからぁ、司君にお願いしたいのぉ」

「エヴェック様ですか?」


 誰だろう?確か何処かで聞いた名前だと思うのだが・・・。

 そんな俺の疑問に歪む表情に気付いたのか、アナスタシアから助け船が出た。


「司様の召喚の儀を執り行った、ヴィエーラ教の枢機卿様ですよ」

「ああ、そうか・・・」

「ふふふ、ローズちゃんと司君のぉ、結婚式の依頼の手紙よぉ」

「え?」

「式のタイミングはぁ、2人に任せるけどぉ、依頼だけは先にしておかないとぉ」

「なるほど、そう言う事なんですね」

「司、お願いねっ」

「ああ」

「ふふふ」


 僅かに語尾が跳ねたローズに、リールは可笑しそうに笑みを浮かべていた。

 そう言えば此の世界に召喚された日に説明を受けたな。

 リアタフテ家の女性当主候補は妊娠をもって、結婚が成立するのだった。

 俺は其の事を思い出し、遂に俺も正式に結婚するのかと少し感慨深いものが込み上げてくるのだった。


「そう言えばぁ、ダーリンにも手紙を書こうかしらぁ」

「っ⁈」

「あらぁ、どうかしたのぉ、司君〜?」

「い、いえ、何でもありません」

「そお〜?」

「は、ははは・・・」


 今度は俺が乾いた笑みを浮かべる番だった。


(そう言えばあの果たし状、まだ封を開いて無いんだよなぁ・・・)


 俺はリールからケンイチへの手紙というワードに、バドーより渡された果たし状の事を思い出し、王都にはケンイチも居る事に一抹の不安を抱くのだった。


 翌日学院でデリジャンに王都に行く為、休みを申し込んだ後、ザックシール研究室へと向かった。

 なお、デリジャンには冬期の長期休暇の際、補習で休み分の授業は取り戻すと言われた。


(実に教育熱心な人だなぁ・・・。はぁ〜)


「どうしたの司、冴えない顔して?」

「そうですね司様、パッとしない顔してますよ?」

「・・・ルーナ、其れは単純な悪口だ」

「ふふ、そうねぇ見慣れると悪く無い顔してるわよ、ルーナ?」

「まぁ、それはそうですけど・・・」


 フェルトのフォローとも言えなくも無い発言に、ルーナは何処か惚けた様に視線を逸らしながら応えるのだった。


(こうして見るとルーナも表情が豊かになってきたなぁ)


 俺がそんな事を考えながら、真夜中水面に映る月の様な儚げな横顔を眺めていると、視線に気が付いたのかルーナが此方を見てきた。


「司様、視姦?」

「違うわっ‼︎」

「ふふふ」


 その後フェルトに今回の王都への旅を伝え、ルーナの事をどうするか相談した。

 ルーナは魔力供給は俺が行い、細かなメンテナンスはフェルトが行っているので、王都に行っても、リアタフテ領に残っても、問題点が有った。

 フェルトに旅への同行を提案してみたが、当然の様に却下されるのだった。


「ルーナ、司と一緒に王都へ行きなさい」

「マスター、良いのですか?」

「貴女にはなるべく色々な経験をして欲しいのよ」

「了解です、マスター」

「司、ルーナの事お願いね」

「ああ、だが大丈夫か?」

「勿論、司なら何があってもルーナを守ってくれるでしょ?」

「まぁ、それはそうだが」

「何かあれば、直ぐにルーナを此処へ連れて来て」

「わかったよ」


 結局ルーナは俺と共に来る事になった。

 そして翌日、俺はルーナ、ミニョン、フレーシュと共に王都へと出発したのだった。

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