第81話


 執務室のリールへ、昨晩の戦果の報告に行った俺達を、リールは先ず無事に戻った事を喜んでくれた。


「皆んなぁ、本当に良かったわぁ」

「リール様、ありがとうございます」

「当然ですわ」


 昨晩の不安な態度は何処へやら、ミニョンは胸を張って応えた。


(まぁ、良かったのかな?)


 安心し過ぎて油断を生むのは問題だが、不安に身を固めてしまい、戦場で力を発揮出来無いのは命を落とす危険を増す事になる。

 そこら辺はバランスの問題だろう。


「皆んなにゆっくりして貰いたいのだけど・・・」

「いえ、休養は足りています。直ぐに敵本隊に備えます」

「・・・」

「リール様・・・」


 苦悶の表情を浮かべ、俯いたリール。

 俺はその気持ちを汲みながらも、本題へと促す様に呼びかけた。


「そうね、ごめんなさい」

「いえ、相手の状況はどの様な感じですか?」

「ええ、フェーブル辺境伯軍2000とディシプル1500の併せて3500よ」

「此方は?」

「リアタフテ領全土で3000だけど、点在する村の警護に1000、屋敷と街と学院の警護に700で、打って出る事の出来る兵力は1300ね」

「う〜ん・・・」


 最初にフェーブル軍5000と聞いた時程の絶望感は無いが、やはり兵力差は歴然だな。


「フェーブル辺境伯は軍をかなり領土に残しているんですね?」

「ええ、あくまで予想の範囲だけど、まだ2軍の間に信頼関係の構築が出来てないのね」

「その様ですね・・・」


 そうなると分からないのが、そんな関係でフェーブル辺境伯がサンクテュエールに叛意を示した事だ。

 俺は説明し辛い不気味ものを感じたが、とにかく今は此のリアタフテ領を守るしか無いと気持ちを新たにした。


「其の3500をどうにか出来て、王都からの援軍が到着した場合、其の2軍の連合に対抗出来るんですよね?」

「勿論ですわっ、一掃ですわ‼︎」

「お、おう・・・」


 俺のリールへの質問にミニョンが力強く答えてしまった。

 其れに圧倒される俺に、リールも時期的にみて、ディシプルへの侵攻は冬を越してになるが、フェーブル辺境伯領は即全土を制圧してしまうと答えた。

 俺は必要事項の確認が出来たのでリールから策の説明を受けた。

 敵は軍を3つに分け、1つはフォール将軍率いるディシプル軍1000による中央から進軍するもの、1つはフェーブル辺境伯軍1300による右翼より屋敷を侵攻するとみられる軍、そして連合の1200が背後に控え戦況によって動きを決めると見られている。

 此方は屋敷を侵攻する軍に対し700の兵をアームが率いて対応し、フェルトが背後に控える軍へと向かったと言う事だ。

 アームも勿論兵力差を考えると厳しいが、フェルトに関しては本人が無事であればリールは問題無いと言った。

 勿論一時的でも足止め出来れば、王都からの援軍の到着で戦況は一変する助けになるのだが・・・。


「じゃあ、残りの600でディシプル軍に対抗するのですか?」

「ええ、それで司君にお願いがあるのだけど・・・」

「何でしょうか?」

「其の軍の指揮を司君に執って欲しいの」

「えっ、自分がですか⁈」

「ええ、ごめんなさい。司君にこれ以上負担をかけたく無いのだけど、立場上お願いしなければいけないの」

「・・・はぁ」

「お願い出来るかしら?」


 確かに俺はローズの婚約者で、立場的には仕方ないのかもしれないが・・・。

 昨晩も所謂軍人では無い素人のみだから出来た事で、全く自信は無くそんな人間が指揮官などすべきでは無いと自覚した。

 でもそんな俺にローズからも追い打ちがかかった。


「私からもお願い、司」

「ローズ、でもなぁ・・・」


 困惑しか出来ない俺に、リールはアームがしっかりと此方のフォローが出来る様に部隊の人選はしてくれたと言い、諦めるしか無かった。


「分かりました。精一杯努めます」

「ごめんなさい、司君」

「ありがとう、司」

「当然ですわ」


 リール、ローズ、ミニョンによる三者三様の反応、俺は心の中で溜息を吐きながらも、覚悟を決めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る