第80話


 屋敷に戻った俺達は、昨夜学院の寮から屋敷に来ていたというルチルとフェルトに再会した。

 昨日の昼、学院で別れたばかりだったのにかなり久しぶりの感じがした。


(それだけ今回の件が衝撃的な出来事って事だな・・・)


 ルチルに理由を聞くと、日頃世話になっているリアタフテ家の危機に黙って見てられないとの事で、一晩掛けてリールを説得したそうだ。


「でも、フェルトは・・・」

「ふふ、でも?」

「いやぁ・・・」


 フェルトがまさかリアタフテの危機に立ち上がるなんて想像出来無いのだが・・・。

 その答えは意外にして、想定し得るものだった。


「まあ、司の思う通りよ。私はリアタフテを助けたりはしない」

「・・・」

「でも、対人間を想定した兵器の実験が行える最高の環境じゃない?だから、領主様からの許可を貰ったのよ」

「そういう事か、納得したよ」

「ふふ、なら良かったわ」

「・・・」


 フェルトの発言中、口を閉じるのは当然として、ローズはその瞳に一切フェルトを映さなかった。


「では、私はもう行くわね」

「え?行くって、何処に?」

「もう、許可は取ったわ。準備も有るし移動させて貰うわよ」

「いや、一人でか⁈」

「当たり前でしょ?私は今の所この実験を公表する気は無いわよ」

「いや、でも・・・」

「ふふ、心配してくれるの?」

「其れは当然だろ‼︎」

「・・・っ」

「ふふ」


 余裕の態度を取り続けるフェルトに、俺はつい声を荒げてしまった。

 ローズが一瞬身体を震わせたのにマズイと思ったが、言葉を引っ込める訳にはいかなかった。


「ありがとう、司。でも大丈夫よ」

「いや、危険過ぎる」

「そうです、マスター」

「ふふ、ルーナも落ち着きなさい。言ったはずよ私がリアタフテを助けたりはしないって、実験を継続出来無い状況になれば当然逃げるわよ」

「でも・・・」

「私を信じなさい、司、ルーナ」

「うぅぅ・・・」


 諭す様に俺達に語りかけるフェルト。

 状況を考えると俺達がフェルトに行わなければいけないのだが・・・。

 そのあまりの冷静さとフェルトの元来の性格に、無理なら逃げると言う発言を信じるしか無くなった。


「約束してくれるんだな?」

「ええ、勿論よ」

「分かった、信じるよ・・・」

「ふふ、ありがとう」

「マスター・・・」

「ルーナ、気をつけてるのよ」

「はい・・・、マスターも」

「ええ、じゃあ行って来るわ」


 俺達から離れて行くフェルトをローズが呼び止め近づいた。

 此方には何を話しているのか聞こえなかったが、ローズとフェルトから俺に視線が送られた。

 その瞬間フェルトが少し面白そうな顔をし、ローズに何事か耳打ちし出発した。


「ローズ、フェルトと何を話していたんだ?」

「ん?・・・何でも無いわ」

「い、いや・・・」

「本当よ・・・、本当に他愛も無い事なのよ」

「そうかぁ・・・」


 ローズは答えてくれそうも無いので、俺は追及を諦めるしか無かった。


「まあ、あの娘の事だから無茶はしないでしょ」

「そうだな・・・」


 未だ心配を続ける俺に気を使ってくれたのか、ルチルがそんな事を言ってくれた。


「そう言えば・・・」

「ん?どうかした?」

「ルチル、何処かで転んだのか?」

「いいや、どうして?」

「あぁ、何か少し汚れているみたいだから?」

「ああ、そう言う事か。此れはね・・・、まぁ後々分かるよ」

「そ、そうなのか?」

「うんっ、まあ見ててよ」


 なんだか自信ありげなルチル。

 とりあえず俺はリールへと報告に行く事にした。

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