第79話


 明くる朝、日が昇る前に屋敷が見える所迄戻った俺達。

 入れ違いに、アームが数名の私兵団員を連れ出る所だった。

 アームは此方に気がつくと、その顔に刻まれた皺をより深くし一礼をし、街の方へと馬を走らせた。


「アームさんどうしたんだろう?」

「様子から察するに、昨日より状況が悪化した感じでは無いですが」

「そうだな、とりあえずローズに確認するか・・・」

「むっ」

「ん?ミニョン?」

「なんでもありませんわっ」

「・・・」


 色々あるが俺はとりあえず屋敷に戻る事にした・・・、はぁ〜。

 玄関にはローズが地面に腰を下ろしていて、俺達の姿を確認すると此方へと駆けて来た。


「司ーーー‼︎」

「ローズ・・・、わっ」

「司っ、司っ、司っ‼︎」

「あ、あぁ・・・、ローズ」

「むぅ〜、ですわっ」


 馬から降りた俺の胸に飛び込んで来たローズ。

 俺達を眺めながら、ミニョンは頰を膨らませていた。

 まぁ、俺の所為なんだろうなぁ・・・。


「ローズ、皆んないるのだしそろそろ・・・、ちょっ、んっ」

「おかえりなさい司、んん〜」

「え、え、何してるんですわ〜‼︎」

「あら、ミニョン無事だったのね」

「無事って、当然ですわ‼︎それよりも何を・・・」

「何って、約束を果たしただけよ、ねぇ司?」

「あ、あぁ・・・、まぁそうだな・・・」

「な、何故ですわ‼︎」

「い、いやぁ・・・」


 俺とローズの会話内容に、俺へと恨めしそうな視線を向けてきたミニョン。

 俺はとりあえずローズを優しく引き剥がし、話題を変えた。


「ローズ、さっきアームを見かけたのだが?」

「アーム?ええ、ギルドに戻ったのよ」

「ギルドへ?何かあったのか?」

「昨日の晩に相手との捕虜交換が成立したのよ」

「そうなのか・・・」


 意外な展開だった。

 相手が俺の情報を持っているか迄は分からないが、リールとローズと言う強力な魔導士を擁するリアタフテ家へに対しては、捕虜を陣中に収めている方が都合が良さそうなのだが?

 相手の陣営に此方の人間が居るとなれば、強力な魔法や、ルーナの炸裂弾を含む射撃を行う事に躊躇があった。

 俺が表情に浮かべた疑問の色に、ローズが少し不機嫌そうながらも答えてくれた。


「フォール将軍は部下思いで有名なのよ」

「そうなのか?」

「ええ、まあこんな方法で侵攻して来たのだから、あの人の噂がどれだけ本当なのかは、疑わしいけど」

「あぁ、そうだな・・・」


 とにかく此れで使える策が増える。

 圧倒的な兵力差に対抗するには、改良した魔法やルーナの力が絶対必要だ。

 俺は有効な手段が使いやすくなった事に喜んだ。


「おかえり〜、皆んな」

「ん?ルチル・・・、え⁈」


 玄関の方から、昨日俺達が屋敷を出発するまではいなかったルチルが、いつもの元気な声とともに出て来た。

 そしてその背後にはかなり意外な人物もいた。


「マスター、どうしたのですか⁈」

「ふふ、ルーナ、司無事で良かったわ」

「フェルト・・・」


 ルチルと共に屋敷から出て来たのは、ザックシール研究室、室長のフェルトであった。

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