第78話


 フェーブル軍への夜襲後、俺達は今夜は警戒を続けながら野営をする事とした。

 アイテムポーチから簡易テントを取り出して張り、簡単な食事を摂り終えた後、ルーナの魔力供給をし、俺は大魔導辞典のあるページを編集していた。

 突然の大規模な戦闘に、新たな魔法を創っても其れを練習する時間は無い。

 その為、今迄使っていた魔法を、今回の戦闘に役立つ様に改良する事を選んだのだ。


「ふぅ〜、こんなもんか・・・」


 俺は作業を終え、一息吐いた。

 流石に今日は疲れた思いながらも、明日はもっとハードな1日になるであろう確信に、此のまま夜の闇が開けぬ事を願う俺だった。


「やっぱり1発くらいは試し撃ちしときたいなぁ・・・」

「・・・司、さん?」

「え?ミニョンか?」


 改良型とは言えぶっつけ本番は厳しいと思い、テストをしようとした俺の下にミニョンがやって来た。


「どうかしたのか?」

「え、えぇ、少し良いですの?」

「あぁ、構わないけど?」

「・・・」

「ん?」


 俺の隣に腰を下ろし、黙り込んでしまったミニョン。


(急用じゃないならテストに行きたんだがなぁ・・・)


 ミニョンに後回しにして貰おうと思い、席を外そうと立ち上がった俺の手はミニョンに突然掴まれた。


「えっ?」

「お待ち下さいまし‼︎」

「っ・・・」


 ミニョンは俺の手を掴み其の手も、突如張り上げた声も、どちらも震えていた。


「ミニョン・・・」

「ごめんなさい・・・、でも一緒に居て欲しいのですわ・・・」

「・・・」


 俺はミニョンの必死な様子に気圧され、再び其の隣に腰を下ろした。

 ミニョンは其れを確認すると、俺でも無理をしているのがすぐに分かる様な様子で口を開いた。


「そ、そう言えば、屋敷に戻らなくても良いんですの?」

「ああ、俺達が屋敷に入れば、相手側にフェーブル辺境伯軍への対応や、王都への連絡が済んだのを伝える事になるからな」

「な、なるほどですわっ」

「やっぱり、アンベシルに会っておきたかったか?」

「えっ、何でですの?」

「いや、一応此の状況だと、リアタフテ領内でのペルダン家のトップは、アンベシルになるから連絡が必要なのかと思って」

「いいえ、必要ありませんわ。お兄様は私を送り出した時点で、役目を果たしたいますのよ」

「そうなるのか・・・」

「ええ、ですわ・・・」


 やっぱり役目になるんだなぁ、俺はアンベシルの様子を思い出した。

 きっと可愛い妹であるミニョンを、送り出したくは無かったであろう、然しあそこまで真剣な様子で覚悟を決めた様子のアンベシル。

 ただ、国の危機に立ち上がらなければ貴族の意味は無い、アンベシルはペルダン家の長男で後継者となる訳で、前線に立つ事は許されないだろう。

 そうなると自然とミニョンを送り出す必要が出てくる。

 俺の常識で語るべきではないだろうが、こんなに小さくか細い娘がだ・・・。


「司さんはローズの事好きなのですか?」

「急にどうしたんだ?」

「答えて下さいですわ」

「う〜ん、勿論好きだけど?」

「そうですか、ローズは羨ましいですわね」

「・・・」


 ミニョンは急に変な事を聞いてきたかと思ったら、今度は黙り込んでしまった。

 こうして静かにしてると、ミニョンは本当に夜の闇に溶けていきそうな程、可憐な印象だった。


「ミニョンは好きな相手とかいないのか?」

「っ・・・」

「ん?」

「はぁ・・・、どうしてなのですわ」

「え、え〜と?」


 少し不機嫌になるミニョン。

 まぁ、それでも感情が感じられるだけマシなのだろうか?


「いますわっ」

「え?」

「いますわよ、好きな殿方」

「そ、そうなのか・・・。なら絶対無事に帰らないとな」

「・・・」

「ん?」


 俺の言葉に少し寂しそうな表情を浮かべるミニョン。

 折角元気になりかけたのに、まずい事をしたと思い、何とか機嫌を直して貰おうと思案しようとした俺の胸に、ミニョンがしがみついてきた。


「お、おい」

「お願いっ、此のままでいて下さいですわっ‼︎」

「え、いや・・・」

「お願いですわっ、だって此の戦いで散る様な事になっ・・・」

「・・・っ」


 ミニョンは俺の胸から顔を上げ、其の瞳に涙を添え懇願してきたが、最後まで言葉を続ける事は出来なかった。


「ミニョン・・・」

「お願い・・・しますわ、今晩だけで良いのですわ」

「・・・」

「司さんがローズの婚約者なのは理解していますわ。でも明日、もし無事でいれなかったら、私好きな人と愛し合う事も出来ずに・・・」

「・・・っ」


 当然だろう。

 俺は既に40年近く人生を送ってきたが、明日戦死するかもしれないとなると、正直恐ろしかった。

 自ら手を下したとはいえ、今日のフェーブル陣営の惨状を見ると、明日自身がああなっていてもおかしくは無いのだ。


「屋敷に戻るか?」

「え?」

「いくら貴族とはいえ、ミニョンは女なのだし後方に居ても問題無いだろう」

「・・・嫌ですわ‼︎」

「で、でも・・・」

「確かに怖いですわ、でももし明日散るのなら・・・」

「ミニョン?」

「もし明日散るのなら、生まれて初めて愛した人の側で散りたいですわっ‼︎」

「え・・・?」

「好きですわ、愛しているんですわ、司さんの事を・・・」

「・・・ミニョン、んっ」

「う、・・・ん」


 突然の告白、そして打ち合う様にただ重ねられた唇の冷たさが冬の訪れを感じさせ、対象的に触れ合う頬がしもやけの熱を感じさせた。


「ミニョン・・・」

「・・・お願いですわ」


 そう言って自身の服に手を掛けたミニョン。

 ただ、寒さからか、或いは緊張からか小刻みに震え上手くいかない様だった。

 俺は其の手を取った。


「す、すいませ・・・、んん、くちゅっ」

「ミニョン・・・、くちゅっ、くちゅっ」


 叱られると思ったのか、謝罪の言葉を発しようとした唇を塞ぎ、乱暴に奪った。


「うぅぅ、んん〜、・・・ん、司さん・・・」


 其のまま服を脱がし、震える身体を愛撫し温めながら、ミニョンの未だ無垢な其処に進もうとすると、その意思に反して無垢な少女特有の神秘的な抵抗があった。


「う、うぅぅ・・・、んん〜、や、やっ、痛っ」

「・・・ミニョン」

「う、うぅぅ・・・」

「痛いか?」

「ん、んん〜」


 瞳から紅く染まる頬を涙が伝った。


「・・・やめるか?」

「っ・・・」


 瞳に溜まる涙が宙を舞った。

 俺は其れを見て、二人の邪魔をする抵抗を許さなかった。

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