第77話


 屋敷からアームとの合流地点に出発した俺、ルーナ、ミニョン、フレーシュ。

 俺達が合流地点に着くと、既にアームと連絡係に選ばれたリアタフテ私兵団員が到着していた。


「若様、お待ちしておりました」

「ええ、すいませんお待たせしました」

「全くですわっ」

「ん?ミニョン様、どうかしましたか?」

「なんでもありませんわ‼︎」

「そ、そうですかぁ」

「は、はは、どうもすいません」

「い、いえ、まあ、初陣ですから緊張もありましょう」

「そ、そうですねぇ、はは」


 先程からかなり不機嫌な状態が続いているミニョン。

 こんな事でこの後大丈夫なのか不安になってきたが、とりあえず連絡係に選ばれた人物と簡単な挨拶を交わし、策の説明をした。

 とは言っても、その内容は単純なもので、俺達がフェーブル辺境伯の軍に夜襲を仕掛け、その混乱に乗じて、連絡係に王都へと駆けて貰うというものだった。


「それでは若様、儂は屋敷に戻らせて頂きます」

「えぇ、屋敷の事お願いします」

「勿論ですじゃ、この命に代えましても」


 そうしてアームを見送った俺達は、フェーブル軍が陣を張る近くの林へと身を隠した。


「どうだ、ルーナ?」

「はい、兵は集結している様です」

「そうか・・・」


 ルーナのスコープを使い、相手を探る俺達。

 敵は王都への道近くに陣を張っていた。

 フェーブルは自身の下に少しでも兵力を置いておきたいのか、本来なら複数地点に点在させるべき兵力を本陣に集中させている様だ。


「司様、どうしますか?」

「もう少し時間が経つのを待って、ルーナの炸裂弾を撃ち込もう、其れが連絡係への合図だ」

「了解しました」

「それにしても運が良かったな」

「そうですね」


 アームからの報告で、捕虜となった人物が此方ではなく、ディシプル軍が連れている事が確認出来ている。

 そうなれば捕虜が、この策で敵から危害を加えられる心配が無く、使用武器や魔法を限定する必要も無かった。

 俺達は身を潜め夜を待った、そして・・・。


「よし、準備を始めてくれ」

「了解です」

「ルーナは敵陣への射撃、フレーシュはミニョンに支援魔法をかけてから射撃で連絡係のフォローを、ミニョンは基本的に動くな」

「え?何でですの?」

「当然だろう、今回は基本的に直接戦闘の予定は無い。ルーナの射撃と俺の魔法で敵の足止めをし、連絡係を王都へ送るのが俺達の役目だ」

「では、何故支援魔法を受けるんですの?」

「念の為だ、いざという時逃げる為、能力を増す必要はある」

「うぅぅ、納得いきませんわっ」

「駄目だ。此処は俺に任されてるんだから指示には従って貰う」

「わ、分かりましたわ」


 何とか納得したミニョン、フレーシュはミニョンに支援魔法をかけ、ルーナは銃にグレネードランチャーのマガジンを挿し構えた。

 俺は其れを確認し、混沌を創造せし金色の魔眼を開いた。


「いくぞっ‼︎狩人達の狂想曲‼︎」


 俺は詠唱をし、自らの足下に闇の狼達を従えた。

 其れを合図にルーナが敵陣に向け炸裂弾を放った。

 敵陣へと向かい飛んで行った弾が、深い闇に沈み始めた夜空で妖しい輝きを放った瞬間、弾が冷え込む空気を吹き飛ばす様な爆音を上げ破裂し、敵陣外で監視をしていた兵達へ襲いかかった。

 悲鳴を上げる事も吹き飛ばされた敵兵。

 連絡係は弾の破裂時の輝きを合図に馬を走らせていた。

 陣の中から出て来た敵兵達。

 俺達は奴等に判断する機会を与え無い様、一斉射撃を始めた。

 再び炸裂弾を放つルーナに、弓による射撃を行うフレーシュ。


「よし、駆けろ‼︎」


 俺も闇の狼達を敵に向かい駆けさせた。

 敵を喰い千切る狼達を確認し、俺は再び詠唱に入った。

 阿鼻叫喚に陥いるフェーブル軍。

 俺は連絡係が無事敵の陣を抜けて行ったのを確認し、射撃を止めた。

 敵の陣幕は射撃でボロ切れの様に引き千切れ、血の海に浮かぶ死体の山が転がり、離れた場所から肉眼でも分かる程の地獄絵図が敵陣に描かれていた。


「良し、俺達は退くとしよう」

「司様、フェーブル辺境伯は捕らえなくて良いのですか?」

「ああ、必要無い。このままディシプル軍との間に入り、敵の動きを監視する。俺達の本隊は私兵団だし、明日の朝には合流したいしな」

「・・・了解しました」


 リールから聞いたフェーブル辺境伯の人物像から、この状況で彼がディシプル軍と合流する事はもう無理だと思うが・・・。

 去って行く俺達の背では、人のものとも獣のものともつかない悲鳴が響いていた。

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