第68話
日々寒さが増し、冬へと歩みを進めるリアタフテ領。
いよいよ今日、お客様を迎えるその日がきた。
アナスタシアはアンを引き連れ準備を進めていた。
「さぁ、行きますよアン」
「はにゃ〜、ちょっと一休みぃ〜」
「早くなさい」
「ふにゃ〜」
(アン・・・、ご愁傷様)
俺は休みだったがバタバタする屋敷の中に居るのも躊躇われ、演習場へと足を運んだ。
学生トーナメント後、俺は新たな魔法を大魔導辞典へと記していた。
ただ今回の魔法は初めての難産で、その制御に苦労していた。
(止まっている的に当てるのは簡単なんだが、動く目標に対してはなぁ・・・)
俺はまたフェルトに人工魔流脈搭載の人形を借りようかと考えたが、もし壊れた時の事を考えると二の足を踏んでしまった。
「あら、ここに居たのですわね?」
「ん?ミニョン、何で?」
背後から掛けられた声に振り返ると其処にはミニョンとフレーシュが居た。
「今日はフェーブル様もいらっしゃるので、そのお出迎えですわ」
「え?」
「真田様はお忘れかもしれないですけど、こんな風でもお嬢様も一応ペルダン家のご令嬢なのですよ」
「ちょっと、こんな風ってどう言う事ですの‼︎」
「は、ははは・・・」
俺はミニョンとフレーシュによる漫才に乾いた笑いしか出なかった。
「そう言えば、アンベシルはどうしたんだ?」
「お兄様?さぁ、そう言えば見ませんわね?」
「失禁様でしたら、ローズ様よりお客様到着まで敷地内への侵入を禁止されて、外でいじけてますよ」
「「・・・」」
フレーシュから告げられた事実に俺とミニョンは沈黙で応えるしかなかった。
哀れなりアンベシル・・・、そしてフレーシュの中では既に失禁様呼びに固定されてるんだなぁ・・・。
「そう言えばっ」
「ん?どうしたっ」
この空気をかき消す為、声を張り上げつつ会話する俺とミニョン。
「休日まで鍛錬とは、流石私のライバルですわっ」
「え⁈」
「え⁈ち、違いますの?」
「う、う〜ん」
「自身への都合の良い解釈、流石失禁様の妹君ですね」
「うぅぅ〜」
「・・・」
フレーシュはミニョンにとどめを刺してしまった。
ペルダン家はこんな事で大丈夫なのだろうか?
他人事ながら俺は心配になった。
「そう言えば」
「どうかしましたか?」
「ああ、アンベシルとミニョンは貴族だからお客様の出迎えに来たんだろ?」
「ええ、ご主人様がいらっしゃらない場では、アンベシル様が代理を勤めるのが役目ですからね」
「フェルトは来ないのか?」
「・・・」
「どうかしたのか?」
フェルトも国へ帰れば、ザックシール家のご令嬢という話なので、この場に現れても不思議では無さそうなのだが・・・。
フレーシュは表情こそ動かさなかったが、逆にそれが口が閉ざされた事に意味がある様に感じさせた。
(まさかフレーシュもローズみたいに、フェルトの事が嫌いだったのか・・・)
ただフレーシュは素っ気なく他国の方なので事情が分かりませんねとだけ答えてくれた。
そうしてそろそろ時間になるという事で、俺達は屋敷へと戻って行った。
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