第69話
そしてその日の昼過ぎに客人と案内役の貴族と隣国将軍がリアタフテ家の屋敷へと到着した。
まず案内役のフェーブル辺境伯は、正に俺が日本に居る時にイメージしていた悪い貴族像を全身で現していて、かなりだらしない体型をしていて、態度の端々からその身分に対する驕りが感じられた。
それを見て、この人が国境付近を治めているという事は、余程サンクテュエールとディシプルの同盟は強固なものなのだろうと思った。
対するフォール将軍はと言うと、フェーブルとは正反対の人物だった。
その顔は悠々としながらも精悍、背丈は170を超えた所だろうか?それ程高くは無いが、無駄な脂肪は無く、浮かび上がる筋肉の筋を数えるのに困る事は無さそうだった。
そしてこの人が文官では無く、如何に現場に生きてきた武官であるかが、その浅黒く焼けた肌が示していた。
(あの足は・・・)
「・・・」
「あ、すみません」
不躾な視線だったろうか?
フォールの左足の膝から先に視線を奪われてしまった。
其れを悟った彼は双眸を静かに此方に向けていた。
「いや構わんよ。此れは珍しい物だろう?」
「あ、はい、いえ・・・、あの・・・」
「ふっ」
「すいません」
「構わんさ、珍しい物であるのは事実だ」
「は、はい、ありがとうございます」
ありがとうございますも変な物言いだったが、ついその言葉で応えてしまった。
話には聞いていたが、彼の左足の膝から先には人間の其れは無く、地面へと向けられた制御装置を施した砲身の様な物が着いていて、其処に魔石が嵌め込まれていた。
「その足は・・・」
「うむ、25の時に戦場で負った傷でな」
「其れまでは傷一つ負わなかったと聞きました」
「ああ、15で初めての戦場に立ち其れまではな」
「凄いですね」
「ふっ、其れがこの慢心を生んだのさ」
フォールはそう言って左足で地面を打ち、金属音を鳴らした。
「それに・・・」
「?」
「其れ以降はこの20年、傷だらけの日々だしな」
「はぁ・・・」
確かにフォールの浅黒く猛々しい肌の目に触れる箇所には、至る所に切り刺し、或いは焼かれたもの等多種多様な傷が刻まれていた。
「20年ですか・・・」
「うむ」
「引退しようとは思わなかったんですか?」
「いや、考えた事もあったよ」
「じゃあ・・・」
何故か?そう問いかけようとしたが、フォールは俺の表情で其れを読んだのか、答えを示した。
「王より請われてな」
「はぁ・・・」
「自身の仕えると決めた主君から、請い求められるのは、武人として最高の誉れだらな」
「なるほど」
そういうものなのか、としか思えなかった。
俺はそもそも人に仕えようと考えた事が無かったし、命のやり取りのあるこの世界で自分ではない誰かに其れを預けるのはどういう感覚なのか理解は出来なかった。
それから少しの間一緒にいて、フォールがリールとフェーブルの方へ向かうと、ローズが此方へと来た。
「司っ」
「ん?どうした?」
「今のフォール将軍よね?何を話していたの?」
「ああ、世間話だよ」
「そう、良い話は聞けた?」
「うん、そうだな」
正直話を聞くというよりはその雰囲気に圧倒されてたのだけど・・・。
最近アルメからあの人の武勇伝を聞かされていたので、芸能人やスポーツ選手に会う感覚に近かった。
学院でアルメに自慢出来るな。
「でも司は凄いわ」
「ん?何がだ?」
「私なんて、挨拶しか出来なかったし、会話なんてとても・・・」
「ローズでもか?」
「勿論、本当に凄い人だもの」
「そうかぁ・・・」
いつも堂々とした態度のローズがここまでになるとは・・・。
俺は改めて凄い人なんだなと思った。
(俺とそんなに歳の差は無いんだけどなぁ・・・)
久々にそんな事を思い出し、少し恥ずかしくなるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます