第57話
学生トーナメントは出場チーム全30で開催となった。
噂通り3年の出場は無く、貴族勢もローズとミニョンのみの出場となった。
今回はローズが出場する事もあり、例年よりも出場チームは少ないとの事だ。
(まあ、貴族っていうのは見栄もあるだろうしな)
試合は三回戦迄はグランドに作られた試合場を使って行われ、準決勝からは武道場を使う事になる。
俺とルーナのチームは運良くシードとなり、二回戦から試合となった。
ただこちらのブロックにはミニョン達がおり、向こうにはローズ達がいるため、優勝するには最悪の場合、両方のチームと対戦する事になった。
「司っ」
「ローズ、どうしたんだ?」
「うん、ちょっとね、・・・あの娘は?」
「ああ、ルーナはフェルトの所でメンテナンス中だよ」
「そうなんだ・・・」
「そっちこそ、ルチルはどうしたんだ?」
「うん、軽めにランニングして来るって」
「そうか・・・」
「・・・」
なんだろう、不思議な間が出来てしまった。
それでもローズは去るでも無く、何か会話を振ってくるでも無く、結局ルーナが戻る迄、この場を離れようとしなかった。
去り際ローズは頑張ろうねとだけ、俺の耳元で囁いて去って行った。
「何か用事があったのですか?」
「いや、まあ良いじゃないか?」
「そうですか・・・」
「ルーナ」
「はい?」
「今日は頑張ろうな」
「・・・はい、司様」
俺達は初戦の相手の偵察へ向かった。
俺達の対戦相手となったのは、1年と2年の剣術クラブのどちらも男子の先輩後輩コンビだった。
初戦でどちらも2年の女子魔導士と男子剣士のコンビに対し、先輩剣士が所謂タンク役となり後輩がどちらも仕留めた。
タンク役は下級とは言え火炎の魔法二発を受けてもダウンする事は無く、かなりのタフさだった。
対して後輩はスピードで勝負するタイプの様で、遠距離攻撃が無いがバランスは取れてると言えた。
ただ・・・。
「これは、悪いが貰ったな」
「油断は禁物ですよ、司様」
「勿論そうだが、俺達相手では相性が悪過ぎるよ」
「・・・まあ、そうですね」
一回戦の戦いを見る限り遠距離攻撃の無いチームの様で、こちらの有利な展開で試合が進められそうだった。
それにタンク役・・・。
確かに下級魔法を二発耐え切ったが、その威力は俺やローズの物と比べてかなり下回っていた。
(これなら新魔法も、狩人達の狂想曲の改良型も使う必要は無さそうだな)
その後行われたミニョン組の試合は圧勝と呼べるものだった。
対戦相手はどちらも2年男子の魔導士と槍使いのタッグだった。
開幕と同時に槍使いを抑えに行くミニョン、相手魔導士は詠唱を始めたがフレーシュの一射目で中断に追い込まれ、二射目を顎に受けあっという間にカウントアウトとなった。
ミニョンはリーチのある相手に決して無理する事はせず、フレーシュが魔導士を仕留める迄と割り切っている様に感じた。
(初対面の印象で猪突猛進ってイメージがあるけど、戦闘スタイルはクレバーなんだよな・・・)
結局槍使いもフレーシュの射撃でダウンさせ、ノーダメージで然も魔法未使用の勝利だった。
ローズ組はもっと凄く、ローズは何もせずルチルが瞬殺で相手を倒してしまった。
そして遂に俺達の試合となった。
「ルーナ」
「はい、司様」
「この試合は俺の魔法で手早く決めるぞ」
「・・・目立ちたがり屋?」
「・・・」
「怒ってますか?」
「いや・・・」
「そうですか、残念です」
「今のはイラッときたわっ‼︎」
俺のツッコミに少し満足しているルーナ。
俺が生みの親にそっくりだよと言うと、整った山脈を持つ胸を張って、得意げにしていた。
(まあ、得意げになれるものをお持ちですがね・・・)
そんな詮無い事を考えつつも、俺はルーナに魔力を節約する様に伝えた。
「了解、でも大丈夫ですか?」
「ああ、この相手なら問題無い」
「そうですか・・・」
「次の試合迄の間隔を考えると、この試合でルーナに余計な魔力を使わせたく無いからな」
「そう言う事なら、軽く牽制程度にしておきます」
「ああ、頼む」
俺達の打ち合わせが終わると同時に、審判の教師から試合開始が告げられた。
「行くぞ、狩人達の狂想曲‼︎」
俺が吼えたの同時に前方に五つの魔法陣が成形され、そこから闇の狼が現れた。
相手はタンク役が前に出て迎え撃つ態勢をとり、その背後に後輩が控えていた。
(なるほど、俺の魔法を受けきって、反撃に出るつもりか・・・)
それなら言う事は無い、喰らって貰う事にしよう。
俺の後方からはルーナが予定通り、牽制を行なってくれた。
ただ、その弾はゴムでかなり威力が抑えられている為、射撃で仕留めるには至らなかったが、隙を作るには充分だった。
その隙を見逃さず三頭の狼でタンク役を仕留め、残り二頭の内を控える後輩に差し向けた。
一頭はスピードを生かし躱されてしまったが、二頭目は直撃し仕留める事に成功した。
そうして審判から俺達の勝利が告げられた。
「良し、予定通りだな」
「ええ、問題の無い勝利でした」
「ああ」
ルーナも納得している様で、その表情も魔力量低下による疲労も感じられなかった。
(この調子なら大丈夫か?)
俺は取り敢えずフェルトに確認して貰う為、ザックシール研究室へと向かった。
「あら、もう終わったの?」
「ああ、初戦は勝利だよ」
「そう、ルーナに悪い事をしたわね」
やはりフェルトはルーナの事は可愛いのか、そんな事を口にした。
「でも、良く出場の許可が下りたな?」
「ふふ、当然でしょ?」
「当然なのか?」
「ええ、通常なら戦闘科ばかりの出場の所に、技術科からも出場者が現れたのだから」
「う〜ん・・・」
「ふふ」
いまいち納得出来ない俺に、フェルトは教育者って言うのはみんな揃ってが大好きなのよっと、笑いながら言った。
「でも、貴方こんな所に来てる場合じゃ無いでしょ?」
「え?」
「ルーナの魔力供給よ」
「ああ、必要なのかどうか、確かめて貰おうと思って・・・」
「必要に決まっているでしょ」
ルーナの魔力は満タンになれば、勝手に魔力供給が止まるし、それによる劣化等の危険も無いのだからとフェルトは続けた。
「そうだったのか・・・」
「ふふ、貴方って本当に・・・」
「な、なんだよ、それは初めて聞いたぞ?」
「そうね、でも聞く機会は幾らでも有った筈よ?」
「そ、それは・・・」
「簡単な事でしょ?リアタフテの娘に日頃してる様にすれば良いだけよ?」
「・・・」
「ふふ」
フェルトは面白そうに笑いながら俺との距離を詰めた。
(何だろう、この香り・・・)
フェルトからは香水だろうか、甘い香りが漂っていた。
「どうしたんだ?」
「ふふ」
「お、おいっ」
「教えてあげるわよ、ふふ」
「な、・・・んっ」
「う・・・、ん」
突然だった。
ただその身のこなしはゆったりとしたもので、躱す事が出来た筈だった。
ただ、鼻をつく甘い香りが其れを許さなかった。
フェルトは俺の髪を指で遊びながら、その少し薄めの唇で俺の物を弄んでいた。
「ぅぅん、・・・くちゅ」
「んっ・・・」
舌先を使い俺の口の中に入って来て一頻り蠢かし、俺の中に甘い香りが充満させた。
俺はフェルトから漂う香りは其処からでは無いかと錯覚するのだった。
「んっ・・・」
「お、お前・・・」
「ふふ」
急に何をするんだ、そう続け様としたが先程迄の熱が残る口は続かなかった。
「こうしてあげれば暫く保つわよ?」
「っ‼︎」
そうして可笑しそうにフェルトは部屋を出て行った。
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