第58話


 結局俺はルーナに普通の方法で魔力供給をした。

 横からフェルトが、如何にも可笑しそうに見ていたのが気になった・・・。


(それに、何故かあの香りを探してしまってるんだよな・・・)


 そんな事を考えているとローズの顔が浮かんできて、俺は首を振った。


(そうだな、今はトーナメントに集中しないと)


 その後、俺達の二戦目は特別語る事もなく勝ち進めた。

 無論それはローズとミニョンにも言える事で、ミニョン組に至っては、結局三戦とも魔法を使わず勝ち進んだ。


「次はミニョン様達と試合ですがどの様に闘いますか?」

「先ずはフレーシュを倒す」

「私はミニョン様を牽制すれば良いのでしょうか?」

「ああ、頼むよ」

「わかりました。ですがミニョン様を完璧に封じるのは難しいと思いますが?」

「その為に狩人達の狂想曲を改良したんだ」

「・・・なるほど」


 俺は今回のトーナメントの為、自身の強化に努めてきた。

 その時に編み出したのが狩人達の狂想曲の改良型だった。


「ここまで使わずに来れましたからね」

「ああ、やはりローズやミニョン達は特殊な例なんだな」

「何言ってるの?」

「ん?」


 俺とルーナがそんな話をしていると、フェルトから横槍が入った。


「あのねぇ、特別なのは貴方の方よ」

「俺?何処がだ?」

「貴方今日何度魔法使ったのよ?」

「今日、2回だけだぞ?」

「初戦は観てないけど、其れも五連無詠唱だったのでしょう?」

「そうだけど?」

「だったら、単純に10回の下級無詠唱を使うより魔力を消費してるのよ?」

「そうなるのか?」

「・・・」


 フェルトは呆れた表情を浮かべ黙ってしまった。

 そう言われても、俺は基本的な魔法の講習の様なものは受けていないので仕方ないだろ、と思った。

 現在デリジャンから受けている補習も、その内容の殆どがこの世界の一般常識や礼節などで、これが俺の入学までに行われた学院の授業内容なのか疑わしかった。


(あれでデリジャンは人間教育に熱心なので、今現在の俺の年齢や異世界から来た事を考えてそれを施してくれてるのだろうが・・・)


 ただその話は別にしても、フェルトがこんな表情を見せるという事は、一般的な魔導士はそこまでの魔力は無いのか?

 その疑問に対するフェルトの答えは当然との事だった。


「それに加えて貴方はルーナに魔力供給もしてるのだから」

「そうかぁ・・・」

「普通の魔導士なら確実に魔力切れで気絶してるわよ」

「正直な所全くキツく無いんだけどな」

「そう、一度貴方の身体を解剖してみたいわね」

「遠慮しておくよ」

「ふふ」


 俺はメンテナンスの為、一度研究室に戻るというフェルトとルーナと別れ、準決勝の会場となる武道場へと移動した。

 会場にはリールがアンとアナスタシアを伴い観戦に来ていて、ローズ達と共に居た。


「司君、準決勝進出おめでとう〜」

「ええ、ありがとうございます」

「日頃の鍛錬の成果が出ている様ですね」

「ああ、アナスタシアが訓練をしてくれてるおかげだよ」

「いえ、司様の努力の成果ですよ」

「・・・」

「どうしたんだアン、今日は大人しいな?」

「にゃっ、にゃにを言ってるにゃご主人様、アンはいつも通りにゃ?」

「そうかぁ?」

「・・・こほん」

「・・・」


 その後試合のある俺とローズとルチルは軽めの昼食を摂った。

 その場でもアンは大人いままだった。


(強く生きろよ、アン)

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