第45話


 ローズに勝負を挑むミニョン。

 ローズは国からも認められる程の魔導士な訳で、ミニョンはそれ程の実力者なのだろうか?

 学院に入学出来た事から低いレベルと言う事は無いのだろう。

 小柄な体型を見ると、魔法で勝負するタイプか?

 ただルチルの例もあるし言い切れるものでも無いか・・・。


「どうしたの、司?」

「ああ、ルチル」

「難しい顔して何考え込んでたの?」

「ああ、ミニョンの事何だが、ローズに勝負を挑むと言ってもどんな戦い方をするのかと思って」

「そういう事。う〜ん、あの娘はどう言えば良いんだろう・・・」

「?」


 一瞬口籠もったルチルだが、続きを絞り出す様に答えた。


「あの娘は魔法と格闘技で戦うスタイルだよ。ただチョットだけ特殊だけどね・・・」

「特殊とは・・・?」


 俺とルチルがそんな会話をしていると、あちらでは別の話が進んでいたのか、ミニョンがローズの制止を振り切り俺の前に立ったのだが、嫌な予感がした。

 ミニョンの立ち振る舞いには先程迄の自身の勘違いを後悔している様な雰囲気が無く、突然教室に現れた時と同じ、何処か他者に不遜な印象を与えかねないものだった。


「真田司さんっ」

「お、おう・・・」

「私ミニョン=ペルダンは貴方とローズに勝負を挑みますわ‼︎」

「え?二対一か?」

「そんな訳ありませんわ‼︎私はフレーシュと共に戦いますわ‼︎」

「ああ、そう言う事か・・・」


 どうしてミニョンがこんなに勝負に拘るのか解らないが、この娘を諦めさせるのは骨が折れそうだな。

 さてどうしたものか・・・。

 俺がこの状況から上手く逃れる方法を考えていると、教室に新たな来訪者が現れた。


「おお、待たせたのぅ、司」

「あ、学院長・・・」

「ん?おお、これはぁ・・・、ふむふむ」


 この騒動の中現れたデリジャンは俺達を眺め何か納得した様な態度を取った。


「お主ら相変わらずの様じゃのぅ、ローズ、ミニョン・・・」

「あら、学院長、御機嫌ようですわ」

「うっ、私は別に・・・」

「ほっほっほっ」


 天然ぽさのあるミニョン、本気で嫌そうなローズ、それを見て笑っているデリジャンと三者三様な態度だった。

 そんな中ミニョンはデリジャンに俺を貸してくれと頼んだ。


「ほう、今回は司とローズと闘いたいと申すか?」

「ええ、突如として現れた世代最強と言われる魔導士、しかもその方が我が永遠のライバルローズの婚約者となれば、そこに挑まない訳にはいきませんわ‼︎」

「なるほどのぉ、ふむその心意気は良しっ」

「それでは・・・」

「うむ、お主ら一年は学生トーナメントは初めての経験じゃし、そのエキシビションと言う意味でもトーナメントと同様のルールでならその対決を許可してやるわい」

「勿論構いませんわ、お二人共、勝負ですわ‼︎」

「「・・・」」


 臨戦態勢で俺達を指差すミニョンに、俺とローズは心底嫌そうな表情で応え、デリジャンはそれを面白そうに眺めていた。


(いやいや、俺達の意見は確認しないのか・・・)


 離れた所では俺達と似た様な表情のフレーシュと、助かったと言う顔をしたルチルがいた。

 話を聞いてみると何時もならルチルが付き合わされるそうだ。


(全然譲ってやるんだがな・・・)


 そう思いつつも、武道場へと先行するミニョンとデリジャンに、仕方なく俺達は付いて行った。

 武道場は俺の試験時の傷跡は完全に修復され、魔石もしっかりと補充されている。


「ではトーナメントのルールについて説明するかのぉ・・・」

「そうですね、お願いします」


 ここまで来たらジタバタしても仕方がない。

 俺達はデリジャンから説明を受けた。

 トーナメントは一戦30分の一本勝負。

 武器は学院が用意する木製の物で一部布やゴム等で保護している物もあるとの事。

 まあ相手を殺す事が目的では無いし当然だろうな。

 そして勝敗はダウンと場外での5カウントと、時間切れの場合残り人数か同数の場合は審判の判定で決まるそうだ。


「場外は解るんですけど、ダウンの定義はどうなってるんですか?」

「それも審判の判断によるのぉ」

「それだと納得しない人間っても出るのでは?」

「そうかのぉ、このトーナメントは模擬戦ではあるが限りなく実戦を想定しておるからのぉ」

「はぁ・・・」

「実戦の場で5秒間も第三者から見て戦闘不能で居れば、魔法や矢等の流れ弾や、馬に踏み付けられる事も考えられるからのぉ、言い訳は通用せんよ」


 まあそう言う考えもあるのか、俺は一応納得した。

 でもそうなると死んだ振りは戦法としては使えないのかな?


「それじゃあ試合開始は10分後、審判は儂じゃ。2組共準備を始めよ」

「はいっ‼︎」

「「「はい・・・」」」


 気合十分のミニョンに、一応返事をするだけの俺・ローズ・フレーシュの三人だった。


「ごめんね、司・・・」

「ん?気にするなローズ、お前の所為じゃ無いさ」

「・・・、ありがとっ」


 ローズは相変わらず真面目だなと思う・・・、まあそこが良い所なんだけど。

 俺はそんな若干バカップル的な事を一人思ってしまったが、直ぐに首を振った。


「どうしたの、司?」

「いや、何でもない」

「???」

「それでミニョンは魔法と格闘技で戦うらしいが、フレーシュはどんな戦闘スタイルなんだ?」

「そうか、司は知らなかったわね」

「ああ・・・」


 まだ学院に残っていた生徒達が何事かと集まり始めている。

 この前でローズに恥を搔かす訳にはいかない。

 そう思い俺は気を引き締め、相手の手札を確認する事にした。

 ローズ曰く、フレーシュの得物は弓矢らしい。

 然もその腕前は正確無比と呼ぶに相応しく、支援魔法による自らとミニョンのパワーとスピードの底上げもしてくると言う事だ。

 ミニョンもその性格からは想像も付かない献身さで、近距離戦闘で隙を作りフレーシュに確実に仕留めさせるスタイルとの事だ。


(なるほど、話を聞く限りかなりバランスのとれたタッグらしいな・・・)


「そうなると此方は俺がミニョン、ローズがフレーシュを狙うのが基本的戦術になるか?」

「そうねぇ・・・、ただ私は短縮詠唱で攻めるけどフレーシュの弓矢は詠唱の必要が無いのを忘れないでね」

「そうか・・・」


 フレーシュの手を見るとその得物が握られている。

 確かに相手の方が先手を取れると言うのは、圧倒的なアドバンテージになる。

 そうなると俺が如何に手早くミニョンを切り崩せるかが勝負の鍵になってくる。

 そうしてローズと打ち合わせを続け、いよいよデリジャンより号令がかかり俺達は対峙した。


「其れではこれより、司・ローズ組対ミニョン・フレーシュ組の模擬戦を始める」

「行くぞっ、ローズ」

「ええ‼︎」


 何だかんだ言いながらも気合いを入れる俺とローズだった。


「では・・・、開始じゃ‼︎」


 そして模擬戦が開戦した。

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