第44話


「でも、全く似てないなぁ、兄貴は完全にオークが間違って人間に生まれてしまった感じなのに」

「そうですね、ただ失禁様はお父上様にもお母上様にも似ていないのですが・・・」


 いや、失禁様って・・・。

 このフレーシュと言うメイドはアナスタシアも真っ青の毒舌でアンベシルを呼んでいた。


(それともこの世界では、メイドって皆んな口が悪いのだろうか?)


 俺はそんな事を考えつつも、どうしても納得出来ない事が出来たので、突っ込む事にした。


「二つ確認したいのだが良いか?」

「何ですの?」

「君はアンベシルの妹で間違いないんだな?」

「ええ、アンベシル=ペルダンは私のお兄様ですわよ」

「じゃあ、君って学院の生徒じゃ無いんじゃないか?」

「いいえ、私は歴としたこの学院の一年ですわよ?」

「ん?でもそうするとアンベシルと同級生になってしまうだろ?」

「勿論ですわ」


 何かおかしくないか?

 そう思った俺にフレーシュから説明が入った。


「アンベシル様は武芸・魔法共に平凡以下なので、試験合格迄に時間が掛かってしまい、今年ミニョン様と一緒に入学となってしまったのです」

「ああ、そういう事か・・・」


 哀れアンベシルと思ったのだが・・・。


(でもよくよく考えると努力を怠らなかったのだから、評価出来るのかな?)


 そんな風に思ったが、次の疑問でその評価も吹き飛ぶ事になる。


「う〜ん、それともう一つ言っておかなければいけないが、俺は君の兄に不意打ちみたいな卑怯な手段を用いた事は、断じて無いぞ」

「えっ?そんな筈はありませんわっ」

「いいや、有り得ない‼︎」

「うっ、うぅ・・・」


 少しきつい口調になっただろうか?

 ミニョンは口籠もりながら後退ってしまった。

 ただ、俺も身に覚えの無い罪までは背負えないのである。


「まあ、有り得る事ではないでしょうか?」

「いや、本当にやって無いぞ」

「いえ、真田様が嘘を言っていると言う訳では無く、アンベシル様が話を盛ってる、若しくは嘘を言っていると言う事です」

「ああ、なるほど・・・」


 俺はアンベシルの事は良く知らないので何とも言えないが、フレーシュがその可能性を指摘しているならそういう事なんだろう。

 フレーシュからの指摘にミニョンは下を向き何か小声でぶつぶつと言っていた。

 一頻り何か呟いた後、ミニョンは顔を上げ俺の方へ向き直った。


「真田様っ‼︎」

「あ、はい」

「この度は、勘違いとは言え失礼な態度申し訳ありませんでしたわ」

「あ、いえいえ、誰にでも間違いはありますから」

「そう言って頂けると助かりますわ」


 急に殊勝な態度で謝罪をしてきたミニョンに、俺は少しドギマギしてしまった。


(きっと、基本的には素直な娘なんだろうな)


 そんな事を思ったが、こういう単純な所が日本に居た時は余りいい結果を生まなかった。

 人を信じる事は良い事でも、その結果騙されたり搾取されるのでは話にならない。


「まあ誤解が解けたなら良かったよ、それじゃあなっ」

「あ、はい、それではご機嫌ようですわ」

「・・・」


 良し、上手くいった。

 心の中でガッツポーズを決め俺は教室から出て行く事にした。

 ミニョンは自身の勘違いの事でまだ少し気が動転しているのか決闘の事は忘れてる様だ。

 一方フレーシュは気が付いてる様だが俺の考えを理解し、乗ってくれる様だ。

 俺はフレーシュに感謝の念を抱きながら教室のドアに手を掛けようとし・・・。


「あっ、司お待たせ」

「うん?どこに行こうとしてるのかな?」

「・・・」


 俺がドアを開けるより先に、廊下側からローズとルチルが開いたのだった。


(しまった間に合わなかったかぁ・・・)


 授業終了後、今日は週末で明日から休みなのでリアタフテの屋敷に外泊すると言うルチルは、ローズを伴って寮に荷物を取りに行っていたのだ。

 しかしこれはマズイ事になってしまった・・・。


「あれ?まさか補習サボる気じゃ無いよね〜、つ・か・さっ?」

「そんな訳無いだろ?失礼だなルチルはぁ」

「そうよっ、司がそんな事する訳無いでしょっ」


(グサっ‼︎)


「ん?今何か聞こえた気がしたけどぉ?」

「き、気のせいだろ?」

「そっかぁ、まあ、ゴメンね」

「お、おう・・・」


 ルチルは謝罪しながらも顔には笑みを浮かべ、全く謝罪する気は無さそうだった。

 妙な所で勘が鋭い奴だな。

 俺はその鋭い勘でどういう対応をすれば正解か当てて欲しかったが既に時は遅い様だった。


「あらぁ?ローズ?」

「え?げっ、ミニョン」

「・・・」


 あ〜あ、見つかってしまった。

 教室はそんなに広くは無いので、ドアを開けられた瞬間こちらに気が付くのは必然的だったのだが、俺はローズの反応に自らの不幸に気が付いた。


(後フレーシュ、俺にそんな恨めしそう視線を送るんじゃ無いっ)


「ここで会ったが百年目、私と勝負なさい‼︎」

「うぅ〜、またぁ?」


(あ、ラッキー。標的がローズに移った)


 俺はそんな失礼な事を思うのだった。

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