第43話
「貴方がローズの婚約者ですの?」
「ん?そうだが・・・?」
ある日の放課後、短縮授業の終わった今でも隔日で補習を受けている俺は、教室でデリジャンの到着を待っていたのだが、目の前に突然の来訪者達が現れた。
その人物は小柄な体型で顔はまぁ整っていると言えるだろう。
特徴的なのは高く作ったツインテールを縦ロールでセットしていた。
(まあ、所謂チョココロネってやつだな)
「やっぱりねっ。ローズはもう帰ったのかしら?」
「いや、まだだ、今ちょっと席を外してる」
「そう・・・、まあいいですわ、貴方お名前は何て言いますの?」
「・・・真田司だ」
人に名を尋ねるのなら先ずは自分から名乗るべきだろうと少し思ったが、流す事にした。
ローズの婚約者という立場上、俺は言動に細心の注意を払う必要がある。
下手に抗議でもし、相手が面倒なタイプの貴族関係者だったりしたらリアタフテ家に迷惑をかける事になるのである。
そんな然もない事を考えていると、チョココロネの背後に控えていた、もう一人の来訪者が口を開いた。
「お嬢様、相手に名を尋ねるのなら自ら名乗って下さい」
「わ、分かってるわよ、フレーシュっ」
「・・・」
「こほん、私の名前は『ミニョン=ペルダン』ですわ」
「私はミニョンお嬢様のメイドで、『フレーシュ=ポーヴルテ』と言います。以後お見知りおきを」
「ああ、よろしく」
背後にいたメイドから窘められ、チョココロネが名乗ってきた、その名はミニョンと言うらしい。
そしてフレーシュと名乗った少女はメイドを名乗るだけあり、長身で美しい姿勢の身体に、メイド服を纏っていた。
髪はセミロングくらいだろうか、ポニーテールで淡い青色をし、目元は涼やかだった。
だが、ペルダンってどこかで・・・。
「それで真田司っ、私ミニョン=ペルダンは貴方に決闘を申し込みますわ‼︎」
「決闘・・・?」
「そうですわっ、貴方が卑怯な手で倒したお兄様の敵討ちですわ‼︎」
「ん?」
ミニョンは俺を指差し、控えめながらしっかりと主張している胸を張りとんでもない事を宣言した。
背後に控えるフレーシュは少しゲンナリしていて、俺と視線が合うと軽く頭を下げた。
そもそも、この話には不可解な点が二つあった。
一つは俺が決闘を申し込まれるという事。
学院に於ける現在の俺の状況は、クラスメイトを除き基本的に恐怖の対象でしか無く、その俺に闘いを挑んでくる存在がいる事が疑問だった。
なおデリジャンには先日暗闇を駆る狩人の学院での使用も禁止されており、俺の手持ちの魔法は狩人達の狂想曲のみとなっている。
禁止理由は相手の生命力を吸い取る魔法を、儂が可愛い生徒達に喰らわせる事を許すと思うか?と言われた。
まぁ、そう言われればそうなのだが・・・。
そんな状況の俺に決闘を挑み勝利しても、恥にはなっても箔などつかないのだ。
じゃあ何の為にとなるともう一つ疑問になる。
ミニョンは俺が卑怯な手を使い兄を倒したと言った。
卑怯な手もそうだが、それを別にしても俺がこの世界に来て闘い勝利した相手はワーウルフしかいない。
あの三人組を倒したのはアナスタシアなのだからな。
それともミニョンはアナスタシアの助けを借りたのを卑怯と言っているのだろうか?
ただそれにはこちらの言い分もあり、ローズを人質に取られていたのだから、あちらの方が余程卑怯と言えるだろう。
・・・、まぁこのミニョンがあのダークエルフかドワーフの妹と言う可能性は限りなくゼロに近いだろうが・・・。
そうなるときっと勘違いか何かだろう。
俺は冷静に話してみる事にした。
「悪いんだが・・・」
「何ですの?」
「取り敢えず俺は君の兄とやらに全く身に覚えが無いんだが?」
「な、何ですって‼︎あんな卑怯な手でお兄様を陥れておいてぇ・・・」
「いや、誤解が有ると思うんだ?」
「誤解って、私確かにお兄様から聞きましたわ」
「え〜と、君のお兄さんは何て言ってたんだい?」
俺は取り敢えずそこから確認しておく事にした。
するとミニョンは兄は、入学試験の折に卑怯にも俺が魔法による不意打ちをしてきて、それを喰らい倒されたとの事だ。
そう言われると俺も反論し辛かった。
あの時の事は正確に状況の把握が出来ておらず、デリジャンからも全ては自分に任せる様に言われていた為、もしかしたら龍神結界・遠呂智による影響で何らかのダメージを負った人間が居たとしても不思議は無かった。
そうなるとここは取り敢えず謝罪をし引いて貰うのが肝要だろうか?
ミニョンはローズの事も知っている様だし、後で確認すれば良いだろう、うんそうしよう。
「なるほど、それは俺にも不手際があったのかもしれない。すまなかった、この通り勘弁して欲しい」
「え?え、・・・と」
ミニョンは謝罪をしてきた俺に驚き戸惑っていた。
まぁ、きっと誤解は有るのだろうが俺の事を不意打ちをする様な卑怯者と思っているのだから当然の反応だろう。
「そ、そうですの?まぁ、謝罪は受け取っておきますわ」
「そうか、ありがとう」
「え、えぇ、どういたしまして」
「・・・」
ミニョンは一応納得してくれたのか、謝罪は受け入れてくれた様だ。
その態度も少し軟化してきたので俺はお引き取り願う事にした。
「それで済まないんだが?」
「え?何ですの?」
「俺この後、補習があって忙しいんだ、だから・・・」
「あら、そうでしたの?それなら先に言ってくれた良かったのに」
「ああ、済まない。急だったもので言い出せなくて」
「分かりましたわ、では補習が終わったら武道場に来てくださいね」
「え?」
「?」
あれ何でミニョンは俺を武道場に呼び出すのだろう?
そして俺が疑問に思っている態度にも、疑問で返してきてるのも何故だ?
その疑問に答えたのはミニョンではなくフレーシュだった。
「お嬢様は決闘自体は引くつもりは無いのですよ」
「そうなのか?」
「当然ですわっ。同年代の最強魔導士となれば挑まない訳にはいきませんわ‼︎」
「・・・」
「兄アンベシル=ペルダンの敵討ち致しません、ですが改めて真田司、貴方に決闘を申し込みますわ」
「ん?アンベシル?」
どこかで聞いた名前を発したミニョン。
え〜と、どこだっけ・・・?
俺が頭にクエスチョンマークを浮かべてるのを見て、フレーシュが応えた。
「ミニョンお嬢様の兄は、失禁のアンベシル様なのです」
「失禁?あぁーーー‼︎」
なるほど、あのオークの妹だったのか、・・・。
ん?不意打ち?
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