第42話


 アンは結局部屋を出て1時間程してから戻って来た。


「あれ?ご主人様、お父様まだ終わらせてなかったのにゃ?」

「アンが居ないと契約魔法が使えないんだよ」

「そうだったにゃ〜、げぷっ」

「・・・、口の横にチリメンジャコが付いてるぞ」

「にゃ〜」


 晩は炊き込みご飯らしい・・・。

 契約魔法は一応中級魔法らしく俺とパランペールは防魔套を羽織ったが、アンは必要無いそうだ。


「大丈夫なのか?」

「当然にゃっ」


 得意げに有りもせず、この先未来永劫育つ事の無いだろう胸を張ってアンは応えた。


「アンは魔法を使えないし、魔流脈も鈍いタイプなんだよ」

「にゃー、お父様‼︎」

「あはは、ごめんよ」


 パランペールが語る事実を隠そうとアンは声を張り上げたが、最初から最後までしっかりと聞こえた。


(まあ、鈍いってのはアンらしいかな?)


 床に置いた制御装置の中心に俺とアンは並んで立ち、その前にパランペールが立ち契約魔法の詠唱を始めた。


「じゃあ、いくよ」

「はい」「にゃ」


 そうして始まった契約魔法だが、拍子抜けする程呆気なく終わってしまった。


「これで契約は完了だよ」

「は、はぁ・・・」

「はは、呆気にとられてるねぇ」

「あっという間に終わってしまったので」

「そうだね、人一人の人生を決める魔法なのにねぇ」

「はい・・・」


 そうだな、これで正式にアンは生涯、俺の奴隷として生きて行く事が決まった。

 まぁ、当の本人はお腹が満たされたのか隣でウトウトしているのだが・・・。

 そんな俺達にパランペールは、二つの小さな石を渡してきた。


「これは?」

「『通信石』だよ。僕からの可愛い娘とそのご主人様へのプレゼントさ」

「これが・・・」

「にゃっ」


 通信石と言われた物、実はこれを見るのは初めてでは無かった。


(とは言っても、この間は既に壊れていたものだったがな・・・)


 それは俺がダンジョンで盗賊ギルドの三人組と戦闘になった時の事、救出に来たアナスタシアは現場の状況を見て即突入による全員の救出は困難と判断し、相手側に隙をつくる事を考えた。

 ただ俺もローズも既に魔法を封じられ、武器も手元に無い。

 ルチルも状態、距離共に状況を変えるのは難しい。

 その時、思い出し浮かんだのが俺の胸元にある剣の事だった。

 朝の出来事を自身と俺しか知らない事に、そしてローズからの発言で自身の存在、意図に気付いて貰えるのを期待し通信石を使いローズとやり取りをしたとの事であった。

 アナスタシアにもし失敗したらどうしてたんだと聞いたら、簡潔にその時は自身の命を捨てローズと俺だけは助けたと応えた・・・。

 その時ローズに受けた説明で通信石の使い方は既に知っている。

 この石は所謂マジックアイテムで一般的に契約を結んだ主人と奴隷が使う事が多い。

 何故かと言うと主人と奴隷が予期せぬ形で離れ離れになり、主人の管理下を離れ奴隷が犯罪行為、もしくは逃走等をしない為に緊急連絡用として使われているそうだ。

 主人は通信石を使い奴隷からの返信が無ければ、その奴隷を指名手配する事が可能でその間に行われた犯罪行為の罪には問われないのである。


「にゃっ、にゃ〜」


 通信石に興味が湧いたのか、先程までの眠気は吹き飛び目が覚めた様子のアンは石を手の中で転がし遊んでいた。


「・・・アン」

「どうしたにゃ、ご主人様?」

「絶対に遊びで使うんじゃ無いぞ」

「にゃはは、当然にゃ」

「・・・」


 アンの態度に俺はかなり心配になった。

 この通信石は一度使えば壊れて使えなくなり、かなりの貴重品である為、高級なのは勿論、金を積めば買えるという物では無いらしかった。


(さて、俺がどんなに言っても無駄だろうしなぁ・・・)


 そんな寂しい事を考え俺はアンに釘を刺しておく事にした。


「アン?」

「にゃ?」

「当然この石の事はアナスタシアにも連絡しとくからな」

「にゃっ⁈何でにゃ?」

「当然だろう?アナスタシアはアンの教育係なんだから?」


 まぁ当然教育係では無く、その依頼も許可も無いのだが・・・。


「で、で、でもにゃっ、これはご主人様とアンの主従関係の問題にゃ‼︎」

「・・・」


 いやお前、俺との間に主従関係を感じて無いだろう・・・。

 ・・・・・・。

 な、泣いてなんて無いんだからねっ、・・・グスン。


「ご主人様ぁ」

「・・・、アンが俺の思って通りの優秀なメイドである事を期待しとくよ」

「にゃ〜・・・」


 アンは石で遊ぶのをやめ、パランペールが渡してくれたアイテムポーチへと直したのだった。

 なお石はアイテムポーチに入れたままでも使えるとの事だった。

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