第41話
「はぁ・・・」
「ご主人様?」
「・・・」
「ご主人様っ‼︎」
「え?あ、ああ、アン何か用か?」
「にゃぁ〜」
「・・・、どうした溜息なんて吐いて、幸せが逃げて行くぞ?」
「・・・」
アンは如何しようも無い人間を見る様な目で俺を見てきた。
(心当たりはあるのだが・・・)
あの日ルーナを失って以来、俺は気力の出ない日が続いていた。
訓練中も上の空でアナスタシアに叱られる事も多く、学院でも授業に集中出来ていなかった。
そんなある日の休日、気分転換と契約を兼ねてリールはアンを連れて街へ行ってくる様に俺に勧めてきた。
いつまでもこんな風にしていても仕方がない、そう自身に言い聞かせ俺は空気を変える事にした。
「そういえばアン、実家に帰るのは久しぶりじゃ無いのか?」
「はいにゃっ、一月ぶり位にゃ」
「そうか、パランペールさんも喜ぶだろうな」
「にゃっ」
アンが俺と書類上の契約を結びもう一月以上経っていた。
屋敷と街の距離は馬車を使えば通勤も可能だし、何よりアンは俺の専属とはいえ週に一日は完全なオフを与えているのだが、実家に帰る事はせず屋敷でのんびりと過ごしていた。
リールは喜んでいるのだが、俺は里心みたいなものは無いのかなぁといつも思っているのだが・・・。
(猫ってたしか帰巣本能があるはずだよな?)
「ん?どうしたにゃ?」
「いや、何でも無いよ」
「そうにゃ?」
そんな関係あるのか無いのか解らない様な事を、ついついアンに視線を向け考えていたからか、俺を心配そうに覗き込んできていた。
「さあ、着いたな」
「ただいまにゃ〜」
アンは子供らしく、家の扉に向かい駆けて行った。
「やあ久しぶりだねアン、それに司君も」
「にゃっ」
「ご無沙汰してますパランペールさん」
「うん、そういえば正式な婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「やはり、ローズに賭けた僕の勘に間違いは無かった様だね」
「は、ははは」
「にゃ?」
そういえばこの人はローズが俺を落とせない筈が無いと言っていたっけ・・・。
流石に商才がある人なんだなと、俺は乾いた笑いを漏らし、アンは何の事かと首を傾げていた。
「それで今日はどんな用件だい?」
「ええ、そろそろアンと契約魔法で本契約をと思いまして・・・」
「ああ、そうだったね」
俺がアンと書類上の契約を結んだ日、丁度朝にローズと魔法を見せて貰う約束をしていた為、ここで先に見てしまうのを断わり、後回しにして貰っていたのである。
「じゃあ少し待ってて、準備をするから・・・」
「はい、お願いします」
そう言ってパランペールは必要な物を取りに行くと部屋を出て行った。
召喚の儀みたいに別の部屋でやる訳じゃ無いんだな。
待っている間アンは部屋の中をチョロチョロと動き回っていたのだが、飽きてしまったのか俺が止めるのに対し、すぐ戻るにゃと出て行った。
(いや、絶対すぐ戻らないだろう)
結局アンが出てすぐにパランペールが段ボール大の箱を抱えて戻って来た。
「あれ、アンは?」
「ついさっき出て行きましたよ」
「そうかぁ、司君もアンには苦労してるだろう?」
「は、はは・・・」
「すまないねぇ、でも良い娘なんだよ」
それは確かにそうだ、基本的アンは素直だし良い娘ではある。
あとはもう少し仕事を頑張ってくれると、居候の様な状態のご主人様としては助かるんだが・・・。
「まあ、アナスタシアが良く教育してくれてますから」
「そうか、なら良かったよ」
そんな事を話しながらもパランペールは契約魔法の準備を進めていた。
箱の中は制御装置の様でそれを床に設置している。
「契約魔法って、制御装置で行うんですか?」
「いや、これはあくまで魔法を補助する為に設置しているんだよ」
「ん?ていう事は制御装置って魔力に反応し起動したり、影響し合ったりするんですか?」
「物によるね。契約魔法様な規模の割に複雑な詠唱を要する魔法には、良く使われるね」
「なるほど」
「良しっと」
準備が終わったのか、パランペールは俺の向かいに腰を下ろした。
「そう言えば、ダンジョンでは大捕物だったらしいね」
「アナスタシアによるものですがね」
「はは、それでも一億の首を相手に救援が来るまでやり合ったのは凄いさ」
やり合ったと言うよりは、一方的にやられてたんだけどな。
あの時の事を思い出すと、今でもぞっとする。
「獣人って皆んなあんなに強いんですか?」
「ん?ああ、アナスタシアの事かい?」
「はい」
「いや、彼女が特別なだけだよ」
「そうなんですか?」
「ただ、それぞれ得意とする分野では人族を上回るけどね」
う〜ん、という事はアンも鍛えれば強くなるのか?
俺は想像してみた。
猫の様な身のこなしで木を登りその上で昼寝するアン、狭い所に落ちた食べ物を拾い食いしお腹を壊すアン。
・・・、うん魔物と戦うアンは全く想像出来ないな。
「一億の首かぁ・・・」
「ん?どうかしましたか?」
「ん?ああ、ごめんね、少し考え事しててね」
「そう言えば今サンクテュエールにも、一人だけいるって聞きましたけど?」
「・・・」
「パランペールさん?」
「司君は、『九尾の銀孤』って聞いた事あるかい?」
「?いえ無いですね」
「その狐の獣人が一億の首だよ・・・」
「九尾の銀孤・・・」
俺は後にそう呼ばれた存在に意外な面子で対面する事になる。
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